アトラクトライト | ナノ

 合宿スタート(4/5)



「まァまァ…飯とかはね…ぶっちゃけどうでもいいんスよ。求められてんのってそこじゃないんスよ。その辺わかってるんスよオイラぁ…求められてるのはこの壁の向こうなんスよ…」



食後は相澤先生の行っていた通り入浴タイム。
峰田くんは男湯と女湯を仕切っている高い壁の前で仁王立ちしながら呟いていた。
そんな不穏な空気を醸し出す峰田くんに僕は声をかけた。



「一人で何言ってんの峰田くん…」


「気持ちいいねえ」

「温泉あるなんてサイコーだわ」



そんな僕の言葉を無視して峰田くんは壁に耳をつける。
心做しか隣の声が聞こえてくるような…?



「ホラ…いるんスよ…今日日男女の入浴時間ズラさないなんて事故…そう。もうこれは事故なんスよ…」

「峰田くんやめたまえ!君のしている事は己も女性陣も貶める恥ずべき行為だ!」

「やかましいんスよ…」



飯田くんが注意するも峰田くんは悟りを開いたかのように安らかな表情を浮かべたかと思うと頭のもぎもぎを掴むとものすごい速さで登っていく。



壁とは超えるためにある!!“Plus Ultra”!!!

「速っ!!」

「校訓を穢すんじゃないよ!!」

「峰田うまいこと言うなー…」

「いやいや。ハル感心すんな」

「(この時の為!!この時の為にオイラは───…!!)」



峰田くんが壁をのぼりきろうとした時だった、壁の上から洸汰くんが顔を出す。



「!」

「ヒーロー以前にヒトのあれこれから学び直せ」

「くそガキィイイィイ!!?」

「おっと」



洸汰くんに阻まれて峰田くんが落ちていく。
それを見て危ないと察したのかハルが個性を使って水を操り峰田くんの落下位置を温泉へとずらす。



「!」

「?」



それを見た洸汰くんが一瞬目を見開いた気がした。
気がしただけだから…確信はないんだけど…。



「やっぱり峰田ちゃんサイテーね」

「ありがと洸汰くーん!」

「わっ…あ…」



すると今度は洸汰くんがバランスを崩して男湯の方へ落ちていく。
運良く近くにいた僕がワン・フォー・オールを発動させてキャッチする事に成功したため大きな事故は免れることが出来た。

僕はそのまま洸汰くんを抱えてマンダレイ達の元へ向かおうとした時、心配してくれたのかハルも一緒に来てくれた。
ソファに寝かせた洸汰くんをマンダレイが見て小さく笑いながら言った。



「落下の恐怖で失神しちゃっただけだね。ありがとう。イレイザーに“一人性欲の権化がいる”って聞いてたから見張ってもらってたんだけど…最近の女の子って発育良いからねぇ」

「(洸汰…見たんだな…)」

「とにかく何ともなくて良かった…」

「よっぽど慌ててくれたんだね」



洸汰くんの無事を確認した僕とハルは顔を見合わせて笑いあった。
再び眠ってる洸汰くんを見た時、ヒーローになりたい僕らとつるむ気はないと言っていたことを思い出す。

あの時から少し気になっていたから僕は事情を知ってそうなマンダレイに聞いてみることにした。



「洸汰くんは…ヒーローに否定的なんですね」

「ん?」

「僕の周りは昔からヒーローになりたいって人ばかりで…あ、僕もで…。この歳の子がそんな風なの珍しいな…って思って」

「…………」

「そうだね。当然世間じゃヒーローを良く思わない人も沢山いるけど…普通に育ってればこの子もヒーローに憧れてたんじゃないかな」

「普通…?」

「マンダレイのいとこ…洸汰の両親ね。ヒーローだったけど殉職しちゃったんだよ」



隣の部屋から飲み物を持ってやってきたピクシーボブの発言に思わず僕は言葉を失う。
そしてマンダレイは続けた。



「二年前…敵から市民を守ってね。ヒーローとしてはこれ以上ない程に立派な最期だし名誉ある死だった。でも物心ついたばかりの子どもにはそんなことわからない。親が世界の全てだもんね。“自分を置いて行ってしまった”のに世間はそれを良い事・素晴らしい事と褒めたたえ続けたのさ…」

「…………」

「私らのことも良く思ってないみたい…けれど他に身寄りもないから従ってる……って感じ。洸汰にとってヒーローは理解できない気持ち悪い人種なんだよ」



その時、僕の頭には死柄木の言葉が浮かんだ。




「救えなかった人間などいなかったかのようにヘラヘラ笑ってるからだよなあ」




するとさっきまで黙っていたハルが口を開く。



「……失う辛さは失った人にしかわからないですもんね。洸汰が憎まれ口叩くのはきっと…………」

「…?」



ハルは何か言おうとしたけどそれを止めてしまった。
僕やマンダレイ達がどうしたの?と聞いてもなんでもないの一点張りで答えてくれることは無かった。

向けられた笑顔がなんだかこれ以上は踏み込むなと言われているような感じがした。
夏休みに入ってから…心做しかハルの雰囲気が変わった。

疲れているような…なんというか……。
本人曰く寝不足気味って言ってたな……確かに行きのバスでもずっと寝てたみたいだけど…。



「ほら。早く戻って服着ようぜ」

「…………(ハルにはハルの考えがあるのかもしれないし…)」



とても無責任で他人事な言い方になるけど、色々な考えの人がいる。
立て続けに聞く価値観の相違もあって、僕はハルのことを深く聞くことが出来なかった。





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