◎ 夏のはじまり(2/4)
「多分逆恨みかなんかだろうさ。彼が現場に来て救えなかった人間は今まで一人もいない。さァ遅くなってしまった。お迎えだ」
塚内さんの視線の先、警察の人と一緒に出てきたのはハンカチを握りしめて涙を目に貯めて心配そうに僕を見つめる母さんの姿。
「お母さん!」
「!(緑谷そっくり)」
「出久…もうやだよ。お母さん心臓もたないよ…」
「ごめんね。大丈夫だよ。何ともないから泣かないでよ。ヒーローと警察がしっかり守ってくれてるよ」
泣いて心配してくれるお母さんをみて心が痛む。
もう誰も心配させたくないのに…ごめんね。
その時、ハルが僕とお母さんの傍に近寄るとゆっくり声をかけた。
「初めまして。俺はみど…出久くんのクラスメイトの水科義晴です。いつもお世話になってます」
「あ…こちらこそ…」
「…今日俺も出久くんと一緒にショッピングモールに出かけていました。彼がこんな事になっているとは知らず…危険な目に合わせてしまいすみませんでした」
「!そんな!ハルが謝ることなんて…」
僕が言い終える前にハルの真っ直ぐな瞳がぶつかる。
その様子に気圧されて思わず言葉が詰まってしまったところをハルは話を再開した。
「いろいろな事件が起こっていて不安に思っているのは仕方ないかもしれません。こんな子供の言葉なんてと思うかもしれませんが…出久くんのことは俺が護ります」
「!」
「…………!」
どうしてハルがこんな風に言ってくれるのかはわからない。
確かにクラスでも特に仲良くしてくれていて、ハル自身の優しい性格なのだが、それだけではなく彼が放った言葉からは責任のようなものを感じた気がした。
ワン・フォー・オールを知る者として?
それとももっと他に理由がある…?
「………義晴くん、出久のことを気にかけてくれてありがとう。……もしかして……普段話してるハルくんってこの子のこと?」
「あ、うん」
「普段話してる…?」
「出久はよく学校の話をしてくれるんだけどそこにハルくんの話題がたくさん出てくるのよ。強くてかっこいい憧れているクラスメイトの子がいるって……そう、あなたが───」
「!」
「ちょ…お母さん!!」
まさか本人の前で言われるなんて!?
恥ずかしい…ってあれ?
ハルの顔もこころなしか赤いような…?
「……話したいことはあるだろうが夜も遅い。また日を改めてゆっくり話せば良いさ」
「そうだわ!ハルくんがよかったらまたうちへ遊びに来てちょうだい。待ってるわ」
「…!ありがとうございます」
そんなやり取りを微笑ましそうに塚内さんは見守った後、後ろにいた警察の方に声をかけた。
「三茶、送る手配を」
「ハッ」
「水科くんは緑谷さんたちと方面は一緒なのかな?もし違うなら僕が送っていくが───」
「俺は大丈夫です。ここから家までそんなに遠くもないので」
「しかし先程の事件があったばかりだからそういう訳にはいかないよ。遠慮しないで大丈夫だから」
「本当に大丈夫です。ありがとうございます、塚内さん」
塚内さんからの提案をハルは笑顔で嫌味なく断るとその場にいた全員へ挨拶をするとさっさと帰ってしまった。
そんな様子にオールマイトと塚内さんもやれやれとため息をついていた。
そうしていると三茶さんが車を手配してくれて僕とお母さんはそれに乗せてもらい家路へと着くことに。
楽しいはずのショッピングがまさかこんな事になるなんて……。
死柄木弔
ヒーロー殺し
敵連合
僕らの日常を蝕む闇はシミのように徐々に広がりつつあった。
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