◎ エンカウンターA(2/3)
温田正弘。
4月に誕生日を迎え年齢は16歳。
本来であれば高校1年生である歳だが、花府事件で心を壊し、重要参考人と追われていたところ“あの人”と出会って敵連合にいるらしい。
俺の意識がはっきりと覚醒してきた雄英体育祭からそれなりに月日は経った。
日が経つに連れて互いの過去の共有や簡単な意思疎通はたまに出来るようになってきた。
だが、温田正弘…ヒロは表に出るほどの回復な出来ていないらしく俺が身体を使わせてもらってるという寸法だ。
だけど全くの他人の身体は違和感があるから早く自分の身体に戻りたいもんだなー。
“あの人”は俺の身体を修復中でそれまでの辛抱と言っていたけど……
「…………」
黒霧のワープを使って出た先は木梛区ショッピングモール。
老若男女問わず多くの人々が行き交う姿に思わず野狐は帽子の唾を掴むとキャップを更に深く被る。
「(……ニュースにもなってるってのに、死柄木はこんなところに何の用があるんだ…)」
何か問題を起こして大事になる前に死柄木を見つけなければと野狐は進んでいく。
保須事件を初めとする敵による残虐な事件が全国のどこかで起こっているにもかかわらず人々は大切な人や友達と笑いあって平和な日常を享受していた。
まるで自分の生きている場所とは全く違う世界に見えた野狐は自分だけ浮いているようなそんな違和感に襲われた。
「(……気分悪い…早く帰るか……)」
自然と俯きがちになっていく視線。
たくさんの人が行き交う中、野狐はどんっと誰かと肩がぶつかってしまった。
ぶつかった相手はガタイの良い男性で、不意をつかれた野狐はその衝撃で思わず倒れ込んでしまう。
「うおっ。兄ちゃん悪い。コラー!待てー!!」
男性は自分の子供を追っているのか野狐に謝りはしたもののすぐにその場から離れてしまった。
地べたに座り込む野狐を心配そうに見つめる人や可哀想にと憐れむ人達の視線が集まる。
「…………」
目立ちたくなかったのに最悪だ。
小さくため息をついて立ち上がろうとした時だった。
「あの…大丈夫ですか?」
「!」
目の前に差し出された手。
徐々に顔を上げるとその人と目が合う。
自分と同じくらいの年頃の青い髪の毛の男の子が心配そうな表情で野狐を見つめていた。
「……ああ」
野狐はその少年の手を借りて立ち上がるとお尻を軽く払う。
少年は野狐を見て特に怪我など見受けられないことを確認すると安堵したようによかったと笑いかけた。
その時、野狐の中の正弘の記憶が脳裏をよぎる。
「一緒に帰ろう」
「雄英なんて大きく出たなー…」
「大丈夫。絶対オレが連れて帰ってくるから」
「ヒロ」
「!」
ヒロの過去の記憶の人物と今目の前にいる人物が重なる。
するとふと言葉を漏らしていた。
「…………水科…義晴……?」
「!どうして俺の名前を────」
「おーい。ハルー!どーしたー?」
「!」
ハルの背後からやってくる上鳴達の姿を確認すると野狐は慌てて踵を返し逆方向へ走っていってしまった。
「あ、ちょっと!」
「?どうした?」
「いや、さっきの人────」
ハルが上鳴達に説明しようとした時、辺りがざわざわと騒がしくなっていく。
何事かと思っていると複数人の警察官の姿が見えて何か事件が起こったことは容易に想像ができる状況下で他の雄英メンバーも集まった。
「敵が現れたんだって!それで緑谷が接触したらしくて…」
「!」
「マジか!それどこだ!?」
「こっちこっち!」
みんながその現場へと向かう中、ハルは野狐が走り去った方を見つめていた。
「…………(さっきの人…もしかして……)」
「おーい、ハルー!」
「…!ごめん!先に行ってて」
「え!?ハルー!!?」
頭に残る疑念を振り払いきれず、ハルは野弧の方へと走り出した。
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