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死柄木弔は僕の首に手をかけながら周りに聞こえないよう耳打ちをする。



「自然に旧知の友人のように振る舞うべきだ。決して騒ぐなよ?落ち着いて呼吸を整えろよ。俺はおまえと話がしたいんだ。それだけさ。少しでもおかしな挙動を見せてみろよ?簡単だ。俺の五指が全てこの首に触れた瞬間、喉の皮膚から崩れ始め…1分と経たないうちにおまえは塵と化すぞ」



USJ襲撃事件の時、死柄木弔に触られた相澤先生の腕が崩れ落ちた様子がフラッシュバックする。
この危機的状況…どうすれば───!



「こっこんな人ゴミで…!やったらすぐにヒーローが…ヒーローが来て捕まるぞ…!」

「だろうな。でも見てみろよこいつらを。いつ誰が“個性”を振りかざしてもおかしくないってのに何で笑って群れている?法やルールってのはつまるところ個々人のモラルが前提だ。“するわけねえ”と思い込んでんのさ。捕まるまでに20……いや、30人は壊せるだろうなぁ…」

「…………!!」



目の前ではその人たちにとっての日常を過ごしている人がいて、僕らが置かれている状況なんて誰も予期することなんてできない。

助けも呼べない。
下手をすれば周りを巻き込む危険性がある。



「…話って…何だよ………」

「ハハハ。良いね。せっかくだ。腰でもかけてまったり話そうじゃないか…」



首に手をかけられたまま近くのベンチへと移動し横並びで座る。
はたから見たら腕を組み仲の良い友達にでも見えるのだろうか…。

死柄木弔は言葉通り何かする素振りは見せずゆっくりと口を開く。



「だいたい何でも気にいらないんだけどさ、今一番腹が立つのはヒーロー殺しさ」

「仲間じゃないのか…?」

「俺は認めちゃいないが世間じゃそうなってる。問題はそこだ。ほとんどの人間がヒーロー殺しに目が行っている。雄英襲撃も保須で放った脳無も……全部奴に喰われた。誰も俺を見ないんだよ。何故だ?」

「……」

「いくら能書き垂れようが結局奴も気に入らないものを壊していただけだろう。俺と何が違うと思う?緑谷」



何故わざわざ僕にこんなことを聞いてきたのかはわからない。
だけど…死柄木弔とヒーロー殺しの違いはなんとなく分かる。



「…………僕は……おまえの事は理解も納得も出来ない……ヒーロー殺しは納得はしないけど…理解は出来たよ…」



僕も、ヒーロー殺しも、
始まりは…………オールマイトだったから。



「僕はあの時救けられた…少なくともあいつは壊したいが為に壊していたんじゃない。徒に投げ出したりもしなかった」



「ゲームオーバーだ。あーあ…今回はゲームオーバーだ。帰ろっか」



「やり方は間違ってても理想に生きようとしてた……んだと思う」



そう言いながら死柄木弔を睨みつける。
その時初めて目が合ったが、その瞬間感じたことの無い悪寒が身体中を駆け巡る。



「ああ…何かスッキリした。点が線になった気がする。何でヒーロー殺しがムカツクか…何でおまえが鬱陶しいかわかった気がする。全部オールマイトだ」

「!?」



初めて見せた死柄木弔の笑顔。
だけど僕はそれを見て言い知れぬ恐怖が襲い来るような感覚が全身に駆け巡る。
そんな僕に気づいていないのかどうでもいいのか死柄木弔は笑顔を浮かべたまま納得したように言葉を並べた。



「そうかあ…そうだよな。結局そこに辿り着くんだ。ああ、何を悶々と考えてたいたんだろう俺は…!こいつらがヘラヘラ笑って過ごしてるのもオールマイト(あのゴミ)がヘラヘラ笑ってるからだよなあ」

「う゛っ…!(首がしまって……っ)」

「救えなかった人間などいなかったかのようにヘラヘラ笑ってるからだよなあ!!」



どんどんと僕の首を掴む手の力が強くなっていく。
く…苦しい…!



「ああ、話せて良かった!良いんだ!ありがとう緑谷!」

「ぐっ」

「俺らは何ら曲がることはない!」

「っ!!」

「っと暴れるなよ!死にたいのか?民衆が死んで良いって事か?皮肉なもんだぜヒーロー殺し…対極にある俺を生かしたおまえの理想、信念。全部俺の踏み台となる」



もうダメだ…そう思った時だった。



「デクくん?」



戻って来てくれた麗日さんが僕と死柄木弔の不穏な様子を感じ取ったように不安げな表情を浮かべていた。



「お友達…じゃない…よね…?」

「!」

「手放して?」

「なっ何でもないよ!大丈夫!だから!来ちゃ駄目…」

「連れがいたのか。ごめんごめん」



死柄木は僕から手を離すとにっこりと笑顔を浮かべた。
そしてベンチから立ち上がり離れたと同時に咳き込む僕を心配した麗日さんが駆け寄ってくれた。

その場から立ち去ろうとする死柄木。
咳き込み涙が浮かびながらもその後ろ姿を見つめながら声をかけた。



「待て…死柄木……!“オール・フォー・ワン”は何が目的なんだ」

「え?死柄木……って…」

「…………知らないな。それより気を付けとけな。次会う時は殺すと決めた時だろうから」









「信念なき殺意に何の意義がある」




信念も理想も…最初からあったよ。ヒーロー殺し。

何も変わらない!
しかし、これからの行動は全てそこへと繋がる…!



「オールマイトのいない世界を創り、正義とやらがどれだけ脆弱かを暴いてやろう」



今日からそれを信念と呼ぼう。




「俺を殺していいのは“本物の英雄(オールマイト)”だけだ」




全部、オールマイトだ。





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