◎ 世界一高い壁(1/4)
「ハッ…ハッ…もうすぐだ!もう!すぐそこ!脱出ゲート!」
緑谷が爆豪の籠手を使ってオールマイトを吹き飛ばし、そのスキをついて三人で脱出ゲートへ向かって走っていた。
すると目の前に校長先生のイラストが載ったポップで可愛らしいデザインのゲートが見えてきた。
この中の二人がくぐればクリアだ。
建物や舗装がボロボロに壊れている。
恐らく一番最初の攻撃…ゲート前から緑谷と爆豪がいた中央まで爆風を届かせたと考えるとやっぱりすごいな。
あの時もこんな威力出されてたら俺の個性じゃ打ち消すことなんてできなかった。
「……」
「オールマイト、追ってくる様子ないね………。まさか気絶しちゃったんじゃ…」
「てめェ、散々倒せるワケねえっつっといて何言ってんだアホが。あれでくたばるハズねえだろクソ」
「爆豪の言う通りだ。オールマイトはあんなのじゃ倒れたりしない。最後まで気を抜かずに行くぞ」
一歩前に出ていた俺は振り向かずに前を向いて走りながら言った。
一応周囲は警戒しているが……オールマイトの気配はまだ感じないな。
「次もし追いつかれたら今度は俺の籠手で吹っ飛ばす」
「うんうん」
「!」
「それでそれで!?」
いるはずの無いオールマイトの声が聞こえてきた瞬間、俺はバッと振り返る。
そして個性を発動させようと手を伸ばしたと同時にオールマイトのパンチが繰り出された。
避けることの出来なかったその風圧によって俺は吹き飛ばされて緑谷と爆豪から距離を取らされてしまう。
「ハル!!」
「!!」
さっき話していた通り爆豪の籠手で攻撃を仕掛けようとしたが、それよりも早くオールマイトによって粉々に籠手を砕かれてしまう。
「何を驚いてるんだ!?」
「速すぎる…!」
「くっ……二人とも逃げろ!!!」
「これでも重りのせいで全然トップギアじゃないんだぜ?さァ…くたばれヒーロー共!!」
オレが体制を立て直す前にオールマイトに完封されてしまい、緑谷は左を掴まれて宙ぶらりんに、爆豪は背中を踏まれ地面に抑え込まれてしまい身動きの取れない状況に。
その間数秒の出来事であまりの速さに俺は言葉を失ってしまった。
「素晴らしいぞ少年たち!不本意ながら協力し、敵に立ち向かう…ただ!それは今試験の前提だからねって話だぞ」
圧倒的な力の差。
No.1ヒーローとの格の違いを見せつけられた。
その時、轟と八百万チームがクリアしたとの放送が流れる。
「驚いた…相澤くんがやられたとは!ウカウカしてらんないな……………」
「(くそ…っ!考えろ。二人を救ける方法を…どうにかして二人を脱出ゲートまで向かわせる方法を……俺が取るべき最善を…!!)」
その時、オールマイトと目が合う。
普段のオールマイトとは違って敵になりきっているからなのか冷たく鋭い瞳が俺を見つめる。
すべてを見透かされているような瞳。
俺の考え、次の行動、すべて───
「さあ、ヒーロー。この状況をどうする?今なら……」
「いたっ……!」
「ぐあ……っ」
「!」
「すぐにこの二人を殺せる(倒せる)ぞ」
その時、ふいに脳裏に過ったのは昔の出来事。
「変な動きを見せてみろ!すぐにこいつを殺してやる!」
「うわああああん!救けてえええ!!」
「このガキ…動くな!下手に刺激をするんじゃない!!」
「どうして誰も救けないんだ!?あの子殺されるかもしれないんだぞ!!」
同じように人質を取られて救けに行こうとしたところ、近くにいたヒーローに止められて…。
「全部壊してやる!!うわああああ!!!」
「!」
不安定だった敵は人質に向けて刃物を振りかざした。
距離のあった俺やヒーローは止めることが出来なかった。
だけど───
「危ない!!!」
あの子は危険を顧みずに飛び込んだ。
そして代わりに刺されて帰らぬ人となった。
「………っ」
あの時、ヒーローを説得できていれば。
あの時、あの子を止めることができていれば。
あの時───
「!!」
代わりに俺が飛び込んでいれば。
「ハルくん」
あの子は今も笑って生きていたかもしれないのに。
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