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 もうじき夏が終わるから(7/7)



「ケロ……」

「俺さ。緑谷達が来てくれた時は正直嬉しかった。プロヒーローも来てくれてたけど、圧倒的な力の差を前にして……不安だった」



聞き慣れた声で名前を呼ばれて、顔を上げたその先に見慣れた友達がいてくれた。



「みんなの姿が見えた時は本当に安心した。……でもこの感情で済んだのは全部結果論でしかない。今回は上手くいったから良かっただけで何か1つでも失敗してたら更に事態は悪化していたかもしれないし…下手したらみんな死んでたかもしれない」

「……」

「だから梅雨ちゃんみたいに冷静に俯瞰して見て止めてくれた子がいてくれたのは嬉しい。辛い立場だったはずなのにそれを省みずに梅雨ちゃんは守ろうとしてくれた」



俺は梅雨ちゃんを見ながら笑った。



「ありがとう。梅雨ちゃん」

「……ケロケロ」



俺がそう言った瞬間、まるでダムが決壊したように梅雨ちゃんはボロボロと泣き出してしまう。



「え!ええ!?つ、梅雨ちゃん大丈夫!?ハンカチ使って。まだ使ってないやつだから……」



梅雨ちゃんにハンカチを渡してとりあえず落ち着くまで何も言わずに待った。
数分後ようやく落ち着いたのか梅雨ちゃんは一言俺に対して礼を告げるとまた沈黙が訪れる。



「…………」

「…………」

「!(そうだ)」



俺はバッと立ち上がる。
すると驚いた梅雨ちゃんが目を見開きながら俺を見つめた。
そんな梅雨ちゃんの左手を俺は掴む。



「梅雨ちゃん。着いてきて!」

「ケロっ?」



不思議そうに首を傾げる梅雨ちゃんを半ば無理やり手を引いて俺は走り出した。
最初は俺自身もよくわからなくて、でも不思議とこうしたい!って気持ちだけは高ぶってて体の進む方に足を動かした。

室内用のスリッパから下駄に履き替える時に俺たちは手を離した。
その時、梅雨ちゃんは戸惑いながら俺に尋ねた。



「どこに行くの?」

「……もうすぐ始まると思って」



そう言って外に出た瞬間だった。
夜空に大きな花火が打ち上がる。
それを皮切りに次々と花火が打ち上がり夏の夜空を彩った。

周りからあがる歓声。
ふと梅雨ちゃんの方を見てみると花火に釘付けになって笑みを浮かべながら花火を見上げていた。



「(そうだ……俺、思い出した)」



こうやって一緒に花火を見たくて。
花火を見て元気になって欲しくて。

泣いてる顔見たくなかった。
その涙を拭いたかった。

ずっと────




「うおっでっけー!!」

「わあ!綺麗だね!ハルくん」




ずっと笑っていて欲しくて。



「!」

「…………」

「(ハルちゃん…笑ってる)」



花火を見る横顔を盗み見られていたことに気づかないくらい俺も釘付けになっていた。

あの日の爆音や怒号が消えたわけじゃない。
だけどもっと大切なことを思い出せた。

二人と過ごしてきた日々の大半は楽しくて…笑顔で溢れたかけがえのない日常だった。



「ハルちゃん。行きましょう」

「!」

「みんな待ってるわ」

「……うん!」



社会が大きく変わってしまうような出来事があって、
復興も進んできているが全てが元通りではない。



「あ、ハルー!梅雨ちゃん!こっちこっち!」

「二人ともどこ行ってたんだい?」

「ちょっと…な?」

「ちょっとね」

「なんだよなんだよ!オイラの目の黒い内はクラスでカップルなんて許さねーからな!!」



そんな夏はもうじき終わりを迎えるけど、

俺は────




今日皆と見た花火も忘れない。





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