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 もうじき夏が終わるから(6/7)



花火の音が聞こえた時、やっぱり怖くなって俺は逃げた。
外に出ていて誰もいない校舎の中で俺はしゃがみこんでいた。

乗り越えたと思っていたのに。
変われたと思っていたのに。

どこまでも弱虫な自分が嫌になる。



「…………」



膝に顔を埋めていると突然聞こえてきた足音。
ここには入らないでくれ、と願いも虚しく扉が開けられる。
慌てて俺は顔を上げた。



「あ……」

「ハルちゃん?」

「梅雨ちゃん……」



なんて言い訳しようか……。
俺は無理やり笑った。



「人混みに疲れちゃってさ。ちょっと休憩中」

「……そう」

「花火が始まる時には戻るって皆に伝えてくれな─────!」



俺が言い切る前に梅雨ちゃんは俺の隣に腰を下ろす。
そして小さく笑いながら言った。



「私も休憩させてちょうだい。ハルちゃん」

「…………」(コクリ)



梅雨ちゃんは隣に座ったものの特に何か話しかけてくることもなくて、沈黙が訪れる。
でもその沈黙は気まずいものではなくて、無理に話さなくて良いと思えるもので心地よかった。



「……梅雨ちゃんはさ。地元にいた時は夏祭りとか行ってた?」

「ええ。私には妹と弟がいるんだけど二人と一緒に行ったわね」

「そうなんだ。名前は?」

「弟が五月雨で妹がさつきよ」

「へえ。仲良いんだな。俺一人っ子だから兄弟とかちょっと羨ましいや」

「ハルちゃんはあんまり一人っ子っぽくないわよね。面倒見が良いから下の子がいそうなイメージよ」

「んー意外とそんなことないかもよ?」

「あらそうなの?何かエピソードでもあるの?」



梅雨ちゃんにそう聞かれて俺は昔のことを思い出していた。



「親友がいたんだ。ヒロと幸っていう子。ヒロは俺に着いてこーい!って感じのやつでさ。根拠ないくせに自信満々に言うんだけどさ、やけに頼もしいっていうかなんて言うか……そんなヒロに俺は着いてってた」

「意外とハルちゃんにはぐいぐい引っ張ってくれる子の方が相性良いかもしれないわね」

「ふふっ。どうだろ」



ヒロとのエピソードを思い出して可笑しくなって俺は思い出し笑いしていた。
そんな俺にひくこともなく梅雨ちゃんは優しく笑って次の言葉を待っていてくれた。



「あ、でも幸はそんなタイプじゃなくてヒロとは真逆だったなあ。控えめで…一歩ひいて俺らを俯瞰して見てくれてたからアドバイスとか的確だったんだ。でも自分からは言わないから俺らが聞きまくってたな」

「全く真逆の二人だったのね」

「うん。でも二人とも優しくて芯があって……俺の憧れだった。……大切だったんだ」




「ハル!」

「ハルくん!」




「…根拠なんてなかったのにさ。なんだろ…ずっと一緒にいれるって思ってた」



二人の声が聞こえたあとに必ず花火と怒号が混ざった音が頭に響く。
ちゃんと地に足は着いているはずなのに、ふわふわと気味の悪い浮遊感に襲われるこの感覚。

やっぱり俺は──────



「ハルちゃん」

「!」



迷子になってしまいそうになった時、
いつも皆が俺の名前を呼んでくれる。

俺は梅雨ちゃんの方を見る。
すると梅雨ちゃんは辛そうに眉をひそめていた。



「私…ハルちゃんに謝らなくちゃ行けないことがあるの」

「?梅雨ちゃんなんかしたっけ……」

「私はハルちゃんや爆豪ちゃんを勝手に助けに行こうとした緑谷ちゃん達を引き止めた。もちろん緑谷ちゃんの気持ちは…痛いほどわかったわ。だけどヒーローとして、ちゃんとした手順を踏んで正式な形で助けるべきだと思ったの。いくら人の為でも自分本位ではいけない。自分の正義を押し通すだけでは敵と同じだと思ったから」

「…うん」

「それを伝えるだけでよかったはずなのに…私は…緑谷ちゃん達を引き止める時にハルちゃんの名前を使ったわ。それってとてもズルいことだと思って…ずっと後悔していたの」



ふと隣を見ると梅雨ちゃんは大粒の涙を目いっぱいに浮かべていた。
何かの拍子でこぼれ落ちてしまいそうなその涙を見て、俺は何も言えずにいた。

梅雨ちゃんがゆっくりと俺の方を見る。



「ごめんなさい…ハルちゃん」



そう言った瞬間、涙がこぼれ落ちて頬を伝った。

こんなこと言わなかったら俺は知らないままだったのに。
別にこんな辛い思いをしてまで謝る必要なんてないのに。
だけどそう出来ないくらい素直で真っ直ぐな人だからわざわざ俺に打ち明けて、謝ってくれた。

緑谷といい……なんでこんなに不器用で────



「泣かないで梅雨ちゃん」



真っ直ぐなんだろう。






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