◎ もうじき夏が終わるから(2/7)
三人が相澤に交渉しに行ってから数日後。
退院しハルも合流し、寮生活にも慣れてきたある日のこと、1階に集まったA組メンバーに相澤が告げる。
「明後日、雄英で“夏祭り”を実施します」
「「「「「!な…夏っぽーーい!!!」」」」」
突然の夏祭りに興奮を隠せないA組メンバー。
麗日と芦戸が手を挙げた。
「はい!屋台出ますか!?」
「でます。食べ物から金魚すくいまで…まあ一般的な屋台は出ると考えててくれ。ただし費用は実費だ」
「やったあ!」
「はいはーい!花火は上がりますか!」
「OGOBからの寄付が集まったため3,600発打ち上げ予定です。卒業生に感謝しろ」
「一高校の規模じゃない……!!」
「これが名門雄英……!!」
緑谷と飯田が目を見開き驚く。
そんな彼らとは違って相澤の連絡に驚きを隠せない人物が一人。
そんな彼に対して切島が笑いながら肩に腕を回した。
「良かったなハル!」
「切島…もしかして三人が……!?」
「ダメ元だったけど言ってみるもんだな。相澤先生が頑張ってくれたみてーだ」
「さっすが俺らの担任!頼りになるー!」
上鳴の茶化しに周りも乗っかり相澤を褒め称える雰囲気に。
そんな雰囲気に耐えきれなかったのか相澤はわざとらしく咳払いをし話を逸らした。
「今回の雄英夏祭りは一部生徒からの要望あって実施を検討。突然の寮生活開始による不満払拭の意味も兼ねている」
「ヒーロー科以外は普通に夏休みですものね」
「旅行とか友達と遊ぶとか計画してた子からしてたら溜まったもんじゃないよね〜」
「……ということだ。安全面を考慮して外部からの参加はなし。屋台運営含め全て雄英関係者で行う」
「ってことは…相澤先生も屋台で店番するってこと?」
耳郎の発言に屋台でたこ焼きを作る姿や金魚すくいで店番をする相澤の姿などみんなの頭でいろいろな相澤を想像してみるものの……
「全部想像つかんな…」
「夏祭りとイレイザーヘッドっていうのがアンマッチ過ぎて……」
「残念。俺は見回りだ」
ということで、と相澤は締めに入る。
「まだ完全復帰でない者もいる。しっかり身体を休めるように。以上!」
そういうと相澤は寮から出て行った。
その後、みんなの会話は雄英夏祭りで持ち切りになっていた。
「浴衣とか着ていこうよー!」
「葉隠ちゃん良いわね。みんなで着ましょうよ」
「!!女子の浴衣姿なんて最高じゃねえか…全員髪の毛アップにしろよ!うなじ×浴衣サイコー!ぶべっ」
興奮する峰田に葉隠の鉄槌が食らう。
だがA組にとって日常風景なため気にすることも無く芦戸が笑いながら男子達にも提案した。
「せっかくだからA組みんなで浴衣着ようよ!せっかくの夏祭りなんだしさ」
「確かに良いな!みんなで着よーぜ!」
「だりィ」
「そんなこと言わずに着ようぜバクゴー!」
「とても良い案だが誰か着付けできるのか?」
「フッフッフッ……」
飯田の発言に応えるように女性の笑い声が響き渡る。
誰だ!と声のする方に目を向けると玄関先にミッドナイトが立っていた。
「そんなこともあろうかと…任せなさい!少年少女!!当日は浴衣無料貸出!しかも着付けもしてあげるわよ!」
そう言いながら貸出用浴衣の見本が乗った冊子をミッドナイトは手渡す。
それを見るや否や女子たちの目が輝く。
「!!ここ有名なブランドですわ!よく見ると有名な浴衣メーカーも……」
「雄英卒業生のヒーローがここのイメージキャラクターやってるのよ。今回協賛って形でね」
「(雄英のコネすごいなあ……)」
「それに……当日屋台では浴衣割引もあるわよ!着ない理由ないわね!爆豪くん」
「チッ(うぜえ……)」
2日後の雄英夏祭りに期待を膨らます面々。
そんな中、緑谷は少し心配そうな顔でハルを見ていた。
それに気づいた轟が声をかける。
「なんか心配事か?」
「轟くん!うん…夏祭りって聞いてハルは大丈夫かなって……」
「!」
緑谷も轟もハルの過去をコシュマールの個性“ナイトメア”によって知っている張本人。
夏祭りがトラウマになっていないか気にかけていた。
そんな緑谷に対して轟は言った。
「ハルが夏祭り行きたいって言ったんだろ。あいつなりに過去を乗り越えようとしてるなら…俺らがすべきことは心配じゃなくて、信頼して見守ることだ。もしなんかあった時はサポートすりゃいい」
「!」
同じように過去にエンデヴァーとのトラウマを抱え、その過去を乗り越えようとする轟の言葉だからこそ緑谷はハッとさせられた。
「……そうだよね。うん!」
不安げな顔から一変。
緑谷はニコッと笑顔を浮かべた。
「最高の思い出作ろうね!」
「ああ」
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