アトラクトライト | ナノ

 Back side(4/4)



滞在期間約半月。
日本を離れるのがこんなに寂しく感じるのはいつぶりだろう。
ふと昨日ハルと車内で話したことを思い出して思わず笑みがこぼれた。

久々に会ったあの子は大きくなっていた。
子供の成長はあっという間だ。
あんなに小さかったのに今じゃ肩を並べて歩いているなんて…千春が見たらなんて思うだろうか。



「………待たせたな」

「いいや。忙しい中すまない」



カフェでコーヒーを飲んで座っている俺に近づく1つの大きな影。
ぶっきらぼうな呼びかけに懐かしさを感じつつ顔を上げた。



「久しぶりだな、轟。いや───エンデヴァー」

「…………」



エンデヴァーは俺の顔を見るや否や目を伏せると黙ったまま向かいの席へつく。
近くを通りかかる店員にコーヒーを注文すると黙り込んでしまい、俺たちの間には沈黙が訪れた。

エンデヴァーは雄英時代の後輩だった。
俺が高校を卒業し駆け出しヒーローだった頃までは関わりがあったがいつしか疎遠になってしまっていた。
恐らく……俺がオールマイトと共に本格的に活動し始めたあの頃から。



「……要件はなんだ。悪いが俺も暇ではない」

「すまない。久々に話をしたかったんだ」

「…………」



世間一般のイメージならすぐに席を立ち上ち帰ったに違いない。
だが俺には先輩後輩というのもあり気をつかってくれたのか黙ったままその場に居続けてくれた。

エンデヴァーはNo.2ではあるが「事件解決数史上最多」という輝かしい実績の持ち主でもあり、平和の象徴という絶対的存在のオールマイトを超えるために努力を積み重ねてきたことを知っている。
“誰よりも”強くなりたい、頂きに辿り着くべくその人生を全て掛けオールマイトを目指していた。
だからこそ君はそんなオールマイトを越えるのではなく共に歩むことを決めた俺を許せなかったんだろう。



「エンデヴァーの活躍は海外でも目にする。冷静な分析、苛烈な戦闘スタイル───君に憧れている子もたくさん目にした」

「…………ふん」

「あと焦凍くんに会ったよ。ハルのお見舞いに来てくれたんだ。随分大きくなったんだね。冬美ちゃんや夏くんは元気かい?」

「…………ああ」

「なら良かった。冷さんも?」

「冷は………今は入院している」

「!どこか身体が悪いのか?」



俺は冷さんと会った回数が多いとは言えなかったが、家族にプロヒーローがいて、焦凍くんとハルの誕生日が近く、出産時の病院も一緒だったというのもあり、千春とは少し交流があったみたいだ。

他所の家族のことを詮索するのはあまり良いことではないかもしれないが……関わりがあったから心配になってつい聞いてしまった。
いつもの威勢の良い姿とは裏腹にエンデヴァーは視線を落としながら話し始めた。



「……オールマイト(あいつ)が築き上げてきた目には映らない何かが崩れていく音が聞こえてくる。サイドキックとして歩んだ者として聞きたい。俺とあいつの決定的な違いは何だ?平和の象徴とは…何だ?」

「!」

「俺は焦凍に全てを託した。登ってきたからこそ……理解してしまった。俺は頂には辿り着けない、と」

「……」



俺が見てきたオールマイトを話すことは容易なことだ。
だが……本当にそれで良いのだろうか?
彼に言うべきことはもっと他にあるんじゃないのか?

少しの沈黙の後、俺は口を開いた。



「それを俺が答えてもなんの意味もないよ。……エンデヴァー。君は君以外の何者もなれない」



この短期間の間にもメディアでは“新”No.1になるであろうエンデヴァーと“今まで”のNo.1のオールマイトを比べた話題は数々取り上げられていた。
その比較はきっとこれからも続く。
それだけオールマイトの存在は大きかった。

だが───…彼はもう居ない。

居ない者を追いかけたところで奇跡でも起こらない限り戻ってくることは無い。
ありもしない妄想を繰り広げるより、可能性のある未来を考えた方がずっと価値がある。



「それに……その質問は“平和の象徴”に直接聞いた方が良いんじゃないか?」

「!」

「君は昔から言葉が足りないから勘違いされていたのがもったいない。だから一度向き合って話してみると良いよ。オールマイトとも世間とも。そして……冷さんや焦凍くん達とも」



いつでも話せる。
いつでも会える。
当たり前のように享受していた日常は…決して一生続くものではなかった。

終わった時に気づいて、伝えられなかった言葉を思い出す度に後悔が押し寄せた。




「愛してるわ。義孝さん」




恥ずかしがらずに何度でも伝えればよかった。
今になって気づくとは…なんて大馬鹿者なんだろう。



「まあ…無理にとは言わない。だが伝えたい言葉があるなら早く伝えた方が良い。人はいつどうなるかわからない……ヒーローなんてしていたら尚更だ」



俺はエンデヴァーを見つめ直すと言い放った。



「君もまだ“全てを”失っていない。それが見えているなら…きっと大丈夫さ」





千里の道も一歩から。

新たな歩み達の始まりの音はもうすぐ。





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