アトラクトライト | ナノ

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『そんな気全くないのによく言うな』

「!」



死柄木との会話を一通り終えると頭の中にヒロから発せられた皮肉混じりの言葉が響く。
周りにメンバーがいる中、ヒロと頭の中で会話しているのがバレないように汐は“野狐”として冷静を装ったまま答えた。



「(頑張るって言っただけでやるとは言ってないからな)」

『ならどうして敵連合にいるんだよ。言葉通りヒーローを目指してたならわざわざこんなとこにいなくったって……』



ヒーローを目指していた、か。
そんなこと考えてた時期もあったな。

この言葉だけ見ればお前やハルたちとの同じようになれるかもしれない。
でも現実はそんな上手くは行かない。



「(もう目指してないからここにいるんだよ。お前だって野狐の行動権奪えるようになったんだからさっさとハルに泣きつけば良いだろ)」

『!それは……』

「(…出来ないだろ?そういうことだよ)」



ヒロは無罪と言えど世間的には大量殺傷事故を引き起こした敵として認知されている。
その事故から姿をくらまし、敵連合にいるという情報も一部上がっている中、のこのこ戻ってきて誰が信じられる?誰が受け入れる?

全部わかってるのに聞いてやるなんて……酷え奴だな、俺。
世間から見える俺らは、普通に戻るには道を踏み外し過ぎてんだよ。



「(それに俺はあいつに奪われてるあれを取り戻さないといけないしな)」

『!それって汐の身体のことじゃ────…』



忘れもしないあの日。

悪行を行って世間的にも凶悪犯として知名度が上がってきた時に突如何者から襲撃を受けた。
身体中を襲う激痛に意識が朦朧とする中、霞む視界に映る工業地帯のような大層なマスクをつけた男の姿。




「可哀想に。こんなに傷だらけになって───…だが、僕なら君を救えるよ」

「力が欲しくないかい?この世全てを支配できるような力をだ。行知汐」




不気味なほど身体の奥に響き渡る低い声。
次に目を覚ますと液体で満たされた容器によくわからない管が大量に繋がれた俺の身体が浸されていた。




「…これ……なんだよ…」

「損傷が激しかったから修復しているんだ。その間、君には彼の身体にいてもらうことにしたんだ」

「は?」




渡された鏡を見て目を見開く。
今まで感じたことのない不思議な感覚が俺を襲った。




「!誰だ!?」

「彼の名前は恩田正弘。時が来るまでそこで待っていてくれ」

「………!!」




「(俺はお前の身体で…“野狐”で何かを為しても意味が無い。“行知汐”として成し遂げて、世間に知られることに意味がある)」

『!』




「どうして誰も俺を見てくれないの?」




「(だから早く身体を取り戻さなくちゃいけない。それまでお前の不利益になることはしないから協力してくれ、ヒロ)」

『…………』

「(……ヒロ?)」

『……俺はお前の過去を知ってる。だからお前の言う真意も理解出来てるつもりだ』




《20代男性6名傷害強盗事件!犯行現場には血で書かれた謎のメッセージが残されており、被害者のDNAと一致しなかったため犯人のものとの見解が!》

《同月ヒーローを狙った傷害事件発生!またしても血のメッセージが!》

《“I'M HERE”……“私が来た”とは毎度皮肉なメッセージを残してますね》

《速報!血のメッセージを残す連続犯罪者が20代男性 無職の行知汐であると警察が発表。どんな些細な情報でも構いません!心当たりのある方はすぐに110番通報をお願いします》




『お前が犯罪を犯してまで名前や容姿を世間に晒していた理由……それは憧れへの復讐が1つ。だけどそれだけじゃなくて───…』




「俺はここにいる」

「だから俺を────…」





「(うっさい。疲れたからお喋りはここまでな。とりあえずさっきの話検討しとけよ)」

『……考えとく』

「…………」



蓋をした思い出が開かぬようにもう一度固く閉じる。
まるで昔の自分を殺すようなそんな感覚に苛まれて、どんどん心がすり減っていくような気がした。

でもそれでいいだろ。
俺はこいつと違って紛れもない犯罪者だ。
俺の手はとうの昔に赤黒く汚れてしまって、その汚れはもう取れやしない。




「…………なんで…っ」

『………っハル!』




だけどお前の手はまだ綺麗でその手を掴もうとする奴もいる。
まだ戻れるはずだ。

お前はこちら側にいるべきじゃない。
闇を照らす微かな光を見失うな、ヒロ。





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