◎ Back side(2/4)
「あの時一体どこに行っていた、野狐」
「…………」
時は少し遡りオールマイトとオール・フォー・ワンとの戦いが終わった数時間後。
プロヒーローたちとの戦闘で傷ついた敵連合メンバーたちが治療などを施している中、死柄木は戦闘中に姿を見せなかった野狐に対して鋭い視線を向けながら問い詰めた。
死柄木やその様子を黙って見守る他の面々にバレないように自分の左腕を掴む右手の爪をたてながらいつもの飄々とした様子で言った。
「あの日は俺の中にいる“こいつ”を落ち着けるために出かけるって言ったじゃねーか。それが全てだ」
「俺は外出理由を聞いていない。お前が“どこに”いたか聞いている」
「神野区内にいたさ。だが気がついた時にはお前たちは大量のプロヒーロー達に取り囲まれていて俺じゃどうしようもなかった。まあ…援護できなかったのは悪かったよ」
「…………」
あの日俺は確かに神野区内にいた。
だが死柄木達を援護するつもりはなかった。
いや……できなかった。
俺の中にいるヒロがハルを敵連合から解放することを望んでいて、その強い思いが影響したのか一瞬行動権を奪われてしまっていたからだ。
「ハル!!!!」
まさかオールマイトもオール・フォー・ワンもいたあの戦場に飛び込んでいくとは思わなかったわ…。
なんとか逃げ切って事なきを得たものの、少なくともオール・フォー・ワンには気づかれていた。
だが不幸中の幸いと言うべきか、オール・フォー・ワンがヒーロー側に捕まったことでその事実は死柄木達の耳に届くこともなく、俺らもお咎めなしというハッピーストーリーを歩めている。
「…あの時お前がいてもいなくても変わらない。それだけ奴らは強かった」
「(じゃあ聞くなよー…)」
「それに…今更どんな言葉を並べても先生はもう戻ってこない」
「!」
死柄木はそう呟くと俺からふいっと顔を逸らすと椅子から立ち上がりその場を去ろうとする。
それを俺は咄嗟に腕を掴んで引き止めた。
「……なんだ」
「死柄木の言う通りオール・フォー・ワンは捕まり、ハルと爆豪は取り返された。それだけ聞くと俺らの作戦は大失敗、状況は絶望的かもしれないが……平和の象徴(オールマイト)がいなくなった不安感。それに開闢隊の拉致の影響によるヒーローへの不信感。これらは確実に社会を蝕んでいる」
幼児的万能感の抜け切らない“子ども大人”と称されていた死柄木。
ヒーロー側(奴ら)が力をつけるのと比例して死柄木も着実に成長している。
それに今は以前と違って開闢隊のあいつらもいる。
「全部オールマイトだ。オールマイトのいない世界を創り、正義とやらがどれだけ脆弱か暴いてやる。これを今日から信念と呼ぶことにした」
「ショッピングモールでお前は俺に信念を語ってくれたな。今はまだそのスタートラインに立った段階だ。何も終わってない。ここからが始まりだ、死柄木」
「……かっこつけのヒーロー気取り…触発でもされたのか」
「まあ……俺“ら”もともとヒーロー志望だったから…許してくれよー」
「…不快だ。止めろ」
「……はいはい。すみませんねえ…」
腕を振り払って背を向ける死柄木を見つめる。
その時、脳裏には林間学校襲撃前のコシュマールとのやり取りが思い出された。
「おい、野狐。お前にこれやるわ」
「Micro SDカード?」
「俺の“個性”で覗いた過去をデータ化出来るようなアイテムを義爛から買った。死柄木で試したら上手くいったぜ。ただ連発はできないみたいだが…」
「てことはこの中に死柄木の過去が?」
「ああ。映像の状態はあんま良くなかったがなかなかにハードなモンだったぜ。鮮明に見えてたら見たやつがトラウマもんだったかもな」
「……それを俺に渡すって悪趣味だなお前」
「んなの知ってるだろ?俺はそういう人間だ」
その時渡されてからズボンのポケットに入れていたMicro SDをその中で握りしめた。
世の中にはいろんな奴がいて、それぞれの生い立ち、価値観、立場がある。
そんなのにいちいち同情なんてしていたらキリがない。
だから俺は人に踏み込むことをやめた。
そしてこれからもそうするつもりだった。
「皆、嫌いだ」
「…………死柄木」
「!」
「期待してる」
死柄木は俺の言葉を聞いて一瞬目を丸くするがすぐに不満そうな表情に変わると一言。
「他力本願かよ。お前もなんかやれ。お前が一番成果出せてないんだよ」
「うわっ、酷え。はいはい…頑張りますよーっと」
俺は俺のために、
俺とお前らを利用する。
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