◎ 話したいことがあるんだ(3/6)
和やかな雰囲気が流れて緊張が少し解れていくの様子にハルも笑みを零しながら本題である自身の“個性”について話を始めた。
“温冷水”は父親から、“ドライアイス”は友達から譲り受けたもので、自身の個性は“譲受”であること。
人の“個性”や“怪我”を互いの同意の元で譲り受けられる、とハルは説明した。
「!やっぱりウチの怪我を“譲受”してくれたからあんな────…」
「いやいや!何も説明してなかったし、俺が勝手にやっただけだから………責任感じさせてごめん。耳郎」
「……ううん。ウチもごめん。でも…救けてくれてありがとう」
耳郎さんが責任を感じていたことを麗日さんから聞いていたからこれで少しでも肩の荷がおりたら良いな…。
ハルの個性を聞いた皆のリアクションは多種多様だったけど、“譲受”であることを隠していたことに対して誰も責めたりはしなかった。
それよりもふと感じていた不安を代弁してくれるかのように障子くんが口を開いた。
「話をしてくれて俺たちは嬉しいんだが、ハルは大丈夫なのか。今まで事情があり隠していたんだろう?」
「うん。相澤先生たちとも話して、これからは“譲受”も特に隠さずに“温冷水”みたいに特訓していこうと思ってるんだ」
「てことは───日常的に使えそうなのは怪我の“譲受”だからそっちを特訓することになるのか」
「回復系は少ないしありがたいな!個性の“譲受”も強えーけど、相手が“無個性”になると考えると使うのは現実的ではないよな」
瀬呂くんや切島くんの言う通り、“譲受”そのものを使うとなると怪我の“譲受”になるのは明白だ。
確かに万が一オール・フォー・ワンの時のようなことが起こっても、“譲受”の許容範囲上限が上がれば命を落とすことはなくなるかもしれない。
だけど結局使い方そのものを考えなければ根本的な解決にはならない。
もし今までと変わらず命を賭して“譲受”に専念すると言うなら僕は賛成出来ないと思った。
「ただ“譲受”を行うにはハルさん自身にもリスクも伴う…と話にありましたがそれは特訓してどうこう出来るものなのでしょうか……」
「確かにヤオモモの言う通り、どうなるかは俺も皆目見当もついてないのが本音。それに特訓と一緒にリカバリーガールの元で“個性”を使わずに行う応急処置とかも学ぼうと思ってるんだ。だから“譲受”は対処不可能な最終手段といった立ち位置で使っていくことになるかな」
「なら良かったわ。ハルちゃんがその考えで“譲受”を使うと考えてて安心よ」
蛙水さんも僕と同じこと気にしてたんだ…。
いや、きっと蛙水さんだけじゃなくて皆心配してたんだと思う。
僕らを止めてくれたように、きっとハルが身を滅ぼすやり方を選んでしまったら今度は僕らが止めなくちゃいけない。
麗日さんの言っていた皆で笑って頑張っていくには、自分のことも大切にしなくちゃ成し遂げられることではないから。
「来いよ…ヒーロー殺し」
「誰かを救けられるならそれで良い。それで護れるなら本望だよ…!」
「俺が動けば救けられるなら動かない訳にはいかないだろ」
ハルは“個性”の使い方も戦闘のセンスも圧倒的で、きっと純粋な実力だけで言ってもクラスの中でもトップに位置する。
だけど…いや、だからこそなのかもしれないけど、自分の身を犠牲にしてでも皆を護ろうとする戦い方をしようとする傾向にあった。
でもそんな自分と向き合って変わろうとしている様子が見てとれて安心した。
不謹慎かもしれないけど……この事件を通じて変わったのは世間だけじゃない。
僕やハル、身近な人達にも大きな影響を及ぼして、前に進むきっかけとなった。
「ということで俺からの報告は以上!」
そうハルが言ったと同時にタイミング良く再び玄関のチャイ厶が鳴り響く。
どうやらハルの荷物が届いたらしく扉を開けると運送会社の人達が姿を現した。
ひとまずハルの荷解きが終わるまで僕らはそんなハルに内緒でおかえり会の準備を進めることに。
だけど気がかりがひとつあって……
「なあ、緑谷」
「!どうしたの?」
「爆豪────昨日も部屋から出てこなかったのか?」
そう、かっちゃんのことだ。
「荷解きで1日かかってたから疲れて寝てて部屋王には参加してなかったんだ」
「まあ、爆豪は乗り気な感じではないな」
「そうだね。でもその前に僕ら筆頭に相澤先生に怒られて落ち込んでた時に皆を和ませてくれたというか、なんというか……」
「!珍しいなー。でも……爆豪、根は優しいもんな」
「やっ!!?」
か…かっちゃんが優しいだなんて……いくらハルといえども…昔のいじめっ子だったかっちゃんを知っている僕には違和感のある言葉だった。
驚きを隠せない僕を見てハルは一瞬目を丸く見開くとぷはっと笑った。
そんなに僕変な顔してたのか…。
「まあ……長い付き合いだからこそ見せれない顔ってのがあんのかもな」
「ん?ハル何か言った?」
「ううん。なんでもない。じゃあ俺、荷解きしてくるわ」
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