◎ 打ち明け話(4/6)
「!!」
突然帰ってきてこんな話されて……正直自分勝手だと思った。
ずっと昔からその背中を見てきた。
向けられたその背中を見て憧れて目指して応援してくれた。
俺にとっての全てだった。
それを教えてくれたのはあんただったじゃないか。
「……今更そんなの言われても無理だよ」
初めは周りの人達が笑っていられるようにと考えていた。
でもいろんなヒーローやその卵達に出会ってそんなヒーロー達も護りたいと思った。
出会った人の数だけ考え方や価値観があって、それは俺の人生において大きな影響を及ぼした。
「父さんの言う通りヒーローは綺麗事だけじゃ続けられない。きっとたくさん傷ついて、傷つけて、悩むこともある」
人々を思いやり、行動に移せる善人や自らを省みず救けてしまうナチュラルボーンヒーロー達に俺は救われた。
そんなヒーロー達が報われる社会であるべきだと思った。
もう一つの夢。
やっぱり俺は…ヒーローになってこの社会を変えたいんだ。
「だけど雄英に入っていろんな人に出会って、皆誰かのために動いていた。それを知った上で自分だけ逃げて安全地帯から見てるだけなんて……そんなの絶対嫌だ」
「!」
親として危険な思いをさせたくないって気持ちはわかる。
だけど……ごめんね。
「俺は父さんやオールマイトみたいなヒーローになる」
もう俺はヒーロー(この道)以外で生きても幸せになんてなれない。
「!」
「……父さん。昔ばあちゃんが俺にはこの社会を変える力があるって言ってくれたんだ。それ真に受けて“俺が”変えてやるって片意地張ってたけど…それは間違いだって気づいた」
「勝あアアァつ!!!!!」
「俺だってヒーローに…!!」
「それでも…折れるわけにはいかない…俺が折れればインゲニウムは死んでしまう」
「立てよハル。今は死んでもぶっ倒れんじゃねえぞ…!!」
「だって───僕らは友達だろ」
「俺さ、たくさんの仲間に……友達に支えられてきた。きっと一人じゃ出来ないことも皆となら出来る。一人じゃ抱えきれないものも皆と分け合えば歩いて行ける。だからそんな大切な仲間たちに会えた雄英にこれからも通わせて欲しい」
そう言って俺は父さんに向かって頭を下げた。
数秒間の沈黙がやけに長く感じた。
そして父さんが言ったのは意外な一言。
「………わかった」
「!!」
思わずバッと顔を上げると眉をひそめて心配そうながらも優しく微笑む父さんがいた。
「ハルの気持ちはわかった。話してくれてありがとう」
ささやかなこの言葉が嬉しくて目頭が熱くなる。
母さんが死んでから俺達はずっと正面からぶつかる事から逃げてきた。
顔を合わせていてもずっと目が合うことがなかったけど今はもう違う。
まっすぐ目を合わせて自分の思いを包み隠さずぶつけ合っている。
他人から見たらぎこちないやり取りかもしれないけど俺達にとって大きな一歩なのは間違いない。
「雄英に通うこと…ヒーローを目指すこと応援する。だけどこれだけは約束して欲しい」
笑顔から一変真剣な表情を浮かべた父さんから小指が差し出される。
「絶対に無茶せず自分を大切にすること。周りの人が心配してしまうヒーローじゃなくて安心出来るようなヒーローになって欲しい。もしそれが守れなかったら………その時は俺がハルを引き止める」
「(自分を…大切に………)」
自分が死んでもどうでも良い。
だけど周りの人には生きて欲しいなんて矛盾を緑谷に怒られてハッとした。
俺の命はもう俺だけのものじゃない。
俺はそっと小指を父さんの小指に絡めて頷いた。
「わかった。約束する」
「……うん!」
「父さん。俺からも一つ……お願い……いや提案があるんだ」
「?」
「あのね───…」
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