◎ 打ち明け話(2/6)
「全寮制ですか」
特別に借りた病院内の一室に義孝と相澤が机を挟んで座っていた。
机上には1枚の書類。
そこには「雄英高校全寮制導入検討のお知らせ」と書かれていた。
「今回の事件で息子さんを始め生徒への被害を防ぐことが出来なかったこと…改めて謝罪を申し上げます」
「…………」
深々と頭を下げる相澤。
それを見てなんとも言い難い表情を浮かべると義孝は再び書類へ視線を落とした。
「しかし我々も知らず知らず芽生えていた慢心・怠慢を見直し、やれる事を考えております。どうか今一度任せては頂けないでしょうか。義晴さんを含めて話する時間も必要かと思いますので返事はすぐでなくて結構です。ただ────…」
「!」
「必ず義晴さんを立派なヒーローへ育ててみせます」
相澤の真っ直ぐな瞳が義孝に突き刺さる。
そして言葉通りその場で決断はせず義孝は部屋を後にした。
ハルが待つ病室へ向かう際も書類に見ては止めてを繰り返していた。
「(……ひとり暮らしのあの子にとって寮制は安心だ。俺もまだすぐには日本へ帰って来れないし………ただそれ以前に───)」
───あの子にこのままヒーローの道を進ませていいのだろうか?
ハルの個性“譲受”が発生した時に悩んでいた種が今回の事件を通じてまた顔を出す。
親としては危険なことをして欲しくない。
普通に平和に、幸せに生きて欲しい。
そう願っていたが…自分がヒーローという立場にいたのもあってあの子にとっての“普通”は世間一般とは認識が少し違っていた。
「“譲受”は使わないって約束したでしょ!?どうして───…」
「だって…怪我してて痛そうだったから。それに……傷つけちゃった幸ちゃんも悲しそうだったから……お父さんだって困ってる人見たら救けてるでしょ?」
「!」
「俺だって救けたい!いつかはお父さんみたいに強くてかっこいいヒーローになりたい!!」
幼い時から“ヒーロー”が自身の身近にあった。
だからきっとあの子にとってヒーローのいる社会は“普通”だったんだ。
千春と話し合い、悩み抜いて出した決断は…息子の夢を応援するといったもの。
だけど無茶した時は自分たちで止める。
それが親として許すことのできるギリギリのラインでの決断だった。
今、脳裏に浮かぶのは管に繋がれてベッドで眠っていたハルの姿。
「(今、ハルを止められるのは俺だけ……)」
prev|
next