◎ 友達だから(3/5)
思い出の中とは違って、高校生になった俺を見つめて声をかけてくれる幸の姿に大きく目を見開く。
現実ではありえない、だけどそうなら良いのに、と何度も妄想していた事が目の前で起こってる。
それは───ヒーローを目指して切磋琢磨する俺らのそばに彼女も生き続ける“未来”。
「…………っなんで…」
「……泣かないでよ。らしくないな〜」
そう言いながら幸は俯く俺の手を優しく握る。
あの時とは違って温もりを感じるその手が更に懐かしさを駆り立てる。
「あの時……ハルくんのこと独りにしてごめんね。全部背負わせてごめんね」
「謝られる理由なんてない。だってヒロの方が…幸の方が…俺なんかよりずっと辛くて苦しくて────」
「ううん。私は…ずっとハルくんのことが心配だった」
感受性豊かで傷つきやすいくせに、
他人の気持ちにいつも寄り添ってくれる。
冷静に見えて意外と情に熱くて、
実は涙脆いのに我慢している。
「君は皆が思うより強くなんてない…だから心配だったの」
本音を隠して、閉じ込めて、いつも無理して笑うから、
そんな君が寄りかかれる人が必要だと思った。
「「「ハル」」」
「ハルくん」
「ハルちゃん」
「水科」
「ハル少年」
「でも…もう大丈夫だね。ハルくんの近くには素敵な仲間がいるんだもん」
「!」
「無理に忘れようとしなくていい。全部捨てなくってもいい。抱えたままでいいから───ハルくんが今いる場所へ帰ろう」
「ハル」
「大丈夫。私はいつでもここにいるから」
そう幸が笑った時だった。
ふと暗闇に灯りが点る。
その灯りの正体はオールマイトが守っていたワン・フォー・オールの炎で、炎は一瞬大きく燃え上がり光を放つとみるみるうちに小さくなっていく。
「次は……彼の番だ」
その時にいなくなってしまったはずの菜奈さんの呟きが聞こえた。
そしてそれと同時にワン・フォー・オールの炎が小さな煙を残して消えていく。
「また…力を貸してくれるかい?ハル少年」
炎を守っていたオールマイトの姿はいつの間にかマッスルフォームになっていたけど煙を上げながらトゥルーフォームへと姿を変えていく。
だがオールマイトも菜奈さんと同じく笑っていた。
まるで未来に希望を託すかのように。
「…………っ…は、い……!」
そんな二人に答えるとどこからともなく光が差し込んでくる。
眩しくて目を細めた先に見えたのは……白い無機質な天井。
ぼーっとしてて頭が働かないし、体も痺れて上手く動かせない中、周囲に人の気配を感じる。
「ハル!!!?」
雄英に入ってから随分と聞き慣れた少し高めの声が頭に響く。
その主の方へゆっくりと顔を向けると…心配そうな顔をした緑谷の姿が見えた。
「……みど、り、や───」
「ハル少年目を覚ましたのか!?早く医者に───」
「落ち着いてください。今呼んでます」
「(オールマイトに…相澤先生……?)」
緑谷の隣に座るトゥルーフォームのオールマイトの姿と聞こえてくる相澤先生の声。
段々と意識がハッキリしてきて理解する。
「(………戻ってきたんだ)」
言いしれない感情に胸が熱くなる。
その熱はどんどん上がってきて眉間に到達した時だった。
「!ハル?どうしたの…?どこか痛むの…!?」
「ハル少年!?」
「………オールマイトさん、緑谷。その辺に」
「「!!」」
涙が溢れて止まらなかった。
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