◎ 友達だから(2/5)
「やっぱり父さん帰り遅くなるみたい」
「…………」
「もう遅いから寝よっか。ケーキは明日食べよう?」俺…このこと覚えてる。
確か俺の誕生日に皆でお祝いしようと父さんの帰りを母さんと待っていたけどなかなか帰ってこなくて…皆で祝ってもらえないのかって寂しかったんだっけ。
だけどそれは杞憂で───…
「ただいま!」
「!」
「遅くなってごめん!ハル!誕生日おめでとう!」
「ハル良かったね!」
「わあ…!父さんありがとう!」滑り込みで帰ってきてくれてプレゼントもくれて、いつもより夜更かしになったけど母さんが許してくれて今日は特別って3人でケーキも食べたんだ。
ちょっと悪いことしてる気分でだけどすごく嬉しかった。
思い出と言えば……まだたくさんある。
例えば公園でヒロと幸と遊んでた時のこと。
当時パルクール…所謂“個性”を使わずに障害物の多い街中を走ったり飛んだりと自由自在に駆け回る人々の動画を見た俺らは、それに憧れてそれっぽいことをやる遊びに俺とヒロはハマっていた。
「よーし!今日はジャンプの練習だ!あっち側まで一気に飛び越えるぞ!」
「お兄ちゃん!流石に危ないよ」1m程先にある向こう岸を指さしながらヒロはにししと笑う。
だけど下は水路になっていて高さも割とあったから幸は止めようと止めてくれたんだっけ。
でもそんなのヒロは聞く耳を持たず……。
「んじゃ俺から────!」
「お兄ちゃん!!」
「せーっの!ジャーン………」勢いよく駆け出して飛び越えようとした瞬間、
「ゴルァァアアア!!危ないやろ!!!」
「「「!!?」」」近所のおばちゃんがその様子を見ていたらしく心配して大きな声で叱ってくれた。
だけど時すでに遅し。ヒロは止まれずジャンプしてしまっていた。
おばちゃんの迫力満点な大声に驚いて準備が不十分だったため向こう側に届かず、ヒロは為す術もなく水路へと落ちてしまった。
「ヒロ!!?」
「お兄ちゃん!!」慌てて幸と一緒に水路の底を覗き込む。
だけど水位はそこまで高くなかったためヒロはすぐに体制を立て直すとぶるぶると水を飛ばすとやっちゃったと言わんばかりに苦笑いを浮かべていた浮かべた。
その様子に安堵の息を吐くが………
「あ〜ん〜た〜た〜ち〜!!」
「「「!!」」」(ビクッ)近所のおばちゃんに小一時間ほど説教を受けたことは言うまでもない…。
鬼の形相で怒ってたおばちゃん本当に怖かった……リアルにチビってたもん、俺。
たくさんの思い出が脳裏に浮かぶ。
楽しかったこと、怒られたこと、悲しかったこと、嬉しかったこと。
意外にも浮かぶ出来事は日常の些細な出来事ばかりだった。
最初は懐かしく思っていたけどそんな気持ちはいつかなくなって、いつしか俺はその思い出の一部に溶け込むように記憶を辿っていく。
そんな時だった。
「ハル?」
「!」思い出の中には存在するはずのない俺を呼ぶ男にしては少し高めの声。
「どうしたハル?」
「今、呼ばれたような…」
「…………」俺がそう言うと思い出の中のヒロは少し切なそうに微笑むと俺に背を向けて歩みを進めようとする。
慌ててそれを引き留めようとした時、また俺の頭に声が響く。
「君に言われると心強いな」
「俺も全力で向かう。負けない」
「“ありがとう”」
「自分の善悪を相手に押し付けるな。存在しない物差しで物事をはかるな」
「おまえを倒そう!今度は…!犯罪者として───ヒーローとして!!」
さっき俺の名前を呼んだやつと同様、今辿っている思い出には存在するはずのない人たち。
その声が大きく聞こえてくるにつれて見えなくなっていくヒロの背中。
立ち上がって近づいて、手を伸ばして掴もうとするのに俺は動くことすら出来なかった。
「自分の心のままに自分の信じる道を進めばいい」
「それ…お気に入りだから絶対返せよ…!!」
「無事でいてね」
「来い!!!!」
「まだ寝ぼけてんのか?クソ寝坊助が」
「ハル」
「……止めろ…」もう俺の名前を呼ばないでくれ。
もう俺を現実に引き戻さないでくれ。
帰りたいんだ。
戻りたいんだ。
「ハル」
「止めてくれ………っ」「……ハルくん?」
「!」不意に聞こえてきた高く澄んだ声。
思わず顔を上げるとそこには昔と変わらない君が笑っていた。
「…幸……?」
「久しぶりだね。また背伸びた?」
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