アトラクトライト | ナノ

 存在意義(5/5)




「オールマイトのことも貴方が考えてることも全部わかってる。心配しないで。私とハルは大丈夫だから。貴方は選んだ道を信じて進んで」




彼女に甘えて、父親としての自分を捨ててヒーローとしての自分を選んだ。
オールマイトという絶対的な象徴を作り上げてきた社会を崩さぬよう暗躍し、各地の事件を解決することでなんとか平和を保った。
その過程で長く家を空けることは何度もあった。
だが───




「あ!父さんおかえり!!ニュース見たよ!あれ父さんが解決したんだよね!!学校でも話題になってたよ〜すごいや!!」

「おかえりなさい。ちょうど晩ご飯出来たから一緒に食べましょう」




帰る度にこんな自分を変わらず迎えてくれる家族がいてくれた。
だからこそ自分のやってきたことが間違いではない、正しいことだと胸を張れた。

なのに───…



「(貴方とは違って俺は……彼女の命を喰らって生き延びてしまった。護るべき大切なあの子に全て押し付けて逃げてしまった。そして今の俺は……彼女の真似事をしているだけで何も残ってない)」



功績が欲しかった訳では無い。
地位も何もいらなかった。
だが、ヒーローを辞した後に残ったものはあまりに空虚で……個性もなく今までのように人々を護ることが出来ない自分の存在意義とは何か?と聞かれると口ごもってしまう。



「君だってそうだよ」

「!」



そんな俺に向けてオールマイトの言葉が聞こえてきて思わず顔を上げる。



「始まりは千春さんの後を辿る、だったかもしれないが今は結果としてヒーローの“タカ”から“アイミジン”として“音楽”という手段でたくさんの人々を救っているはずだ。少なくとも私が君の音楽を聞いてそう思ったよ」

「…………」



ニッコリと優しく笑いながら言い放つオールマイトに目を丸く見開く。



「どうして……俺はただ千春の真似事をしているだけで……」

「ん?今まで君が発表した楽曲は君が作ったものなんだろう?あれ。もしかして違ったかな……」

「…いや……確かにそうだが……」

「だろう?プロとしての経験があった訳じゃないのに短期間であんなに人気を博して凄いじゃないか!評価されるということは何か理由がある。きっと君の作った音楽は聞き手の心に響く素晴らしい力があるんだよ」



そしてそれを───、とオールマイトは続ける。



「ハル少年もわかっている」

「!!」

「文通してるんだろ?嬉しそうに話していたよ」



月に1回ほどの決して多くはないやり取り。
そこで互いの近況を伝えあっていて、時には自分の仕事に関する話もハルには報告も兼ねてしていた。



「“父さんのあげた動画がバズった!見てもっと宣伝しといて!”とか“今度新曲出すから買ってよ”とか───ことある事に宣伝されたよ」

「…………」



ヒーローとして活躍している時もそうだった。
あの子は…俺の一番のファンでいてくれた。
それは……引退した今も変わらない……。

ずっと向き合うことから逃げていたのは俺だったんだ。



「今度は君の番だ」

「!」

「準備は出来ているんだろう?胸を張れよ、相棒」



笑いながらオールマイトは俺に拳を向ける。
目頭が熱くなりながらも俺も同じように笑うと拳をぶつけた。





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