アトラクトライト | ナノ

 存在意義(4/5)



病室を出て1階にある売店へ向かってコーヒーを買う。
それを持って売店を後にしようとした時にばったりと鉢合わせたのは“元”No.1ヒーローのオールマイト。



「おや?ハル少年の元にいるかと思ったんだが」

「今ハルのクラスの子が来ててね。少しだけ席を外したんだ」

「なるほどね」



オールマイトは俺の持つコーヒーに見ながら言った。



「ブラックは苦手だったんじゃなかったのかい?」

「あれから随分経ったんだ。飲めるようになったよ」

「…千春さん。コーヒー好きだったね」

「するどいなあ……」



乾いた笑みを浮かべる。
いつもオールマイトにはバレてしまうなあ。
少しだけ話をしたいと思っているとオールマイトも同じ気持ちだったみたいで院内の人通りが少ない中庭のベンチに腰を下ろした。

真夏で茹だるような暑さだが、日を避けて日陰に座ったのとそよそよと草木を揺らす風が俺たちを包み込んでくれるお陰で心地よいと思えた。



「ヒーローを辞めてからは音楽を作っているようだね。“アイミジン”の曲───私も聞いたけど素敵だったよ」

「ありがとう。………だけどねオールマイト。俺は彼女の死を受け入れられなくてずっと彼女の歩むはずの人生を真似て辿ってるだけなんだ」

「…………」



彼女はミュージシャンだった。
高校を卒業してすぐに海外へ向かった時に路上ライブしていて観客として聴いていたのが出会いのきっかけだ。
見知らぬ土地で無名だった彼女をわざわざ足を止めて見る人なんていなかった。
だけど俺には輝いて見えて目が離せなかった。



「彼女はよく言っていたよ。“人を救うのはヒーローだけの特権じゃない”とね」



“個性”に恵まれなかった自分はヒーローを諦めた。
だけどそんな自分も誰かを救いたい。




「音楽は誰にでも平等に聴こえてくる。距離も言語も越えて、嬉しい時や楽しい時はその気持ちを更に駆り立ててくれて、悲しい時や辛い時はそっと寄り添ってくれる。それってすごく素敵じゃない?」

「だから私、音楽でヒーローになりたい」




「千春さんが言いそうな台詞だ。ヒーローを辞した今となってはとても考えさせられる。平和の象徴として表舞台に立てなくなった私にも出来ることがあるのか……私の存在意義とは……」

「貴方に憧れてヒーローを目指した人はたくさんいて、貴方は生きているだけで希望になりうる。……本当にすごい人だ」

「照れるじゃないか…」



否定しないところも貴方らしい、そんな風に思えて思わず口元が緩む。

かつてオールマイトのサイドキック……のような立ち位置でヒーロー活動を共にさせてもらったことがあったが、ヒーロー目線で見てもその活躍は目覚しいものだった。
オールマイトが活躍の機会を増やす程社会が変わっていく。
今の平和な社会は貴方が作り上げたと言ってもきっと過言ではない。

だからこそ守りたかった。




「オールマイトそんな怪我で動くな!」

「無茶だオールマイト。もう引退すべきだ」

「皆が私を探している。待っているなら……行かなきゃあな…。オール・フォー・ワンがいなくなっても…超人社会…すぐ次のあいつが現れるぞ」

「……引くつもりがないのはわかった。ならば───俺が代わりに貴方の作り上げた社会を守ろう」

「何を言ってるんですか!?貴方は奥さんやお子さんを護るために今後の活動を自粛するはずじゃ……!」

「きっと…二人ならわかってくれる」




オール・フォー・ワンと会敵し、瀕死の重傷をおったオールマイトが命を賭して守ろうとした姿を見て、いてもたってもいられなかった。

オール・フォー・ワンからの魔の手が伸びつつある千春やハルを守るという父親の使命とオールマイトの背負うヒーローとしての使命。
天秤にかけて上に掲げられた方を捨てなければならなかった。





prevnext

back

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -