◎ 存在意義(3/5)
そう俯いていると飯田くんがハルの元へ駆け寄ると言った。
「ハルくん。A組もB組もみんな無事だ。爆豪くんも警察で取り調べを受けてから今は家に帰っている。あとは───君だけだぞ。皆待ってる。だから……早く目を覚ましてくれ」
「(飯田くん……)」
「……これお前が楽しみにしてたやつ持ってきたぞ」
轟くんが袋から先程見せてくれた“アイミジン”のCDを取り出しながらおじさんに音楽を流して良いか尋ねる。
どうやら曲を流そうとしているみたいだけど……念の為CDプレイヤーとか持ってきているのか聞いてみると轟くんは頭に?マークを浮かべて首を傾げていた。
「これってこのまま聴けるんじゃないのか?」
「轟くん。これCDプレイヤーかPCとかで読み込まないと聴けないんだよ」
「そうなのか?」
困ったと言わんばかりに轟くんは顎に手を当てて考え込んでしまう。
するとおじさんが轟くんの持つCDのジャケットを見た瞬間、大きく目を見開いた。
そして眉間に皺を寄せて何かに耐えるような表情を浮かべたかと思うとそれをどうしたのか轟くんに尋ねた。
すると轟くんは僕に説明してくれたように、ハルが好きだと言っていて、新曲を楽しみにしていたから買ってきたと答えた。
それに信じられないと言った表情を浮かべると嬉しそうな…だけど切なそうな顔でハルを見た。
「大丈夫ですか…?」
「あ、いや、すまないね。プレイヤーなら俺が持っているから貸そう。と言ってもイヤホンでしか聴けないが……音量を上げれば音質は悪いが皆で聴けると思うよ」
「ありがとうございます」
「…少し席を外させてもらうけど、ゆっくりしていってね」
そう言っておじさんは外へ出ていった。
それを見届けると借りたプレイヤーにCDを入れて音量を上げるとイヤホンから音が漏れて簡易的なスピーカーへと早変わりする。
軽やかでどこか切ないピアノから始まったこの曲はメロディが流れた瞬間、三人ともハッとなにかに気づく。
「これって……ハルくんが口ずさんでいた……」
どこか聞き覚えのあるメロディーはたまにハルが口ずさんでいたものと全く同じだった。
驚いているとCDの歌詞カードに書いてある文字がふと目に入る。
そこには「Halu」と書いてあった。
さっきのおじさんの反応。
そんな奇跡みたいなこと…
信じられないけどもしかして────
「ハル…!!」
眠っているハルの手を握って懸命に声をかける。
突然の僕の行動に二人は驚いたに違いない。
だけどそんなことを気にすることなく僕は続けた。
「ハル起きて!早く!」
「ど、どうした緑谷くん?」
「ハル!!」
お願い。
目を覚まして。
君の生きる世界は過去(そこ)じゃない。
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