◎ 始まりの終わり 終わりの始まり(6/6)
オールマイトが必死に守っていたワン・フォー・オールの残り火がついに消えてしまった。
暗闇を灯すものは何も無い。
オールマイトの姿も菜奈さんの姿も見えなくなってしまった。
「オールマイト…菜奈さん……?」
あの時、自分が戻されなければ。
あの時、自分が怪我の譲受をさせられなければ。
そもそもあの時、俺が捕まらなければ。
もしかしたらこんな結末にはならなかったかもしれない。
今となっては後悔だけが募り、頭の中を駆け巡る。
「(俺が……俺がオールマイトを終わらせてしまった…)」
目頭が熱くなって涙が溢れる。
「ごめんなさい……オールマイトごめんなさい……っ」
誰もいないのをいい事に小さな子供のように泣き続けた。
その時に聞こえてきた懐かしい声。
「ハル」
思わず顔を上げて声の主を確認する。
そこには驚くべき人物がいた。
「どうしたの?」「母さん………?」
「もうすぐご飯出来るからね。ハル」「なん、で……」
「おーっ!今日はハルの好きなオムライスか〜」「父さん……?」
「そんなところに突っ立っててどうした?ハル」
「ほらハル。これ運んで」家族三人の団欒なんていつぶりだろう。
母さんは料理が上手で、そんな母さんの料理が俺と父さんは大好きだった。
一般的な家庭料理がどんな高級料理より美味しくて、何より────二人の笑ってる顔が大好きだった。
「(……これは夢…夢だ────)」
「おーい、ハル!」
「ハルくーん!」 「ヒロ…幸!」
「待たせてごめんね。お兄ちゃんが先生に捕まってて───」
「悪かったって……。なあ今日も行っていいよな!?」
「…………ああ。じいちゃん待ってんぞ」学校が終わると俺の家に三人で向かって、俺とヒロは元プロヒーローだったじいちゃんに特訓つけてもらって、幸はばあちゃんと話しながらその様子を見ていた。
「雄英を受ける?」
「ああ!俺とハルはヒーロー科!幸は普通科!」
「お兄ちゃん!私はまだ───」
「幸ならきっと大丈夫。自信もって」
「かっかっ!雄英は一筋縄ではいかんぞ」
「わかってる。だから、これからもトレーニング見てくれよな!」
「任せておけ。まだまだひよっこ。しっかり鍛えてやろう」明確な目標に向かって、同じ志を持つ大切な友達とがむしゃらに走っていく。
そこには未来への不安とそれ以上の期待と希望で満ち溢れていた。
人々にも、社会にも、ヒーローにも疑問もなく純粋なあの時の気持ちは今となっては残酷だって思うけど俺らにとっての全てだった。
「………」母さんが死んで、三人での団欒どころか父さんとも一緒にご飯を食べられなくなった。
いつしか幸と一緒に帰ることも減って、じいちゃんが亡くなってからヒロもうちに来なくなった。
幸が死んでからヒロは行方不明になって、見つけたと思ったら今は……敵側にいて……。
気づいた時には何も無くなってしまった。
雄英に入って、夢だったヒーローへの道を着実に歩んでいるはずなのに…今年も夏になればみんながいた過去ばかり思い出す。
振り返っていた道をいつの間にか戻っていて、
だけどぬかるみの中に嵌って進めなくて、
過去にも未来にも身動きが取れなくなって立ち尽くす。
「おーい。何辛気臭い顔してんだー?」
「ヒロ!」
「もしかしてハル…ビビってんのか!?おいおい俺ら一緒にヒーローになるんだからそういうの止めろよなー!お前なら大丈夫だって!相棒!」
「わっ。相棒って…最近見たアニメの影響でしょ」
「おい幸!うっさいぞ!!」
「すぐに感化されるんだから〜」
「………あははっ」
「「!!」」
「志は高く目指すはNo.1ヒーローだな!相棒」神様。
俺に明日なんてもう見せなくていいから、
幸せだったあの頃に戻して下さい。
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