◎ 始まりの終わり 終わりの始まり(2/6)
「おまえ…!海外にいると聞いておったが」
「ハルの…息子の様子を見に来ました。連絡を受けてから飛び出たんですが、無計画で出てきたら逆に時間がかかってしまって……」
「ハル少年の様子は……」
「…今も意識は戻っていないが容態は落ち着いて来たみたいだ。だが衰弱が酷くリカバリーガールの治癒も受けられないから……あとは本人の生命力次第」
オールマイトも搬送され治療を受けてすぐにハルの元へと訪れていた。
“譲受”による衰弱とオール・フォー・ワンからの殴打による損傷と予断を許さない状況で集中治療室にて懸命な処置が行われていた。
無事に一命は取り留めたが義孝の話の通り意識は戻っておらず、面会しようにも部屋には入れないのでガラス越し、メンバーも限定されていた。
「……ニュース見たよ。全部」
「…………」
「……俺もハルに甘えて…傍にいれてない。そんな立場で言えることではないかもしれないが……怖かったよ。もしあの子まで死んでしまったらと思うと………怖かった…」
義孝は震える手を握りしめる。
そして力はほとんど入っておらず、触れる程度の力加減でオールマイトの胸に押し当てた。
その拳がやせ細った身体から浮き出る骨にぶつかると義孝は眉をひそめた。
「…どうしてこんなことに……」
「すまない…本当に申し訳ない…!!」
オールマイトはそっと義孝の腕を掴むと自身の胸から退けさせ、頭を下げた。
怪我を負っているというのもあったが、掴む手はNo.1ヒーロー・平和の象徴として名を馳せていた当時のような力強さはなく、弱々しい一人の男の力そのものだった。
それに気づいた義孝は一瞬目を見開くがすぐに何かを堪えるように目を細めた。
「私が…彼に君の“個性”を譲受するように助言した。私が…彼を護るから大丈夫だと言ったのに───何一つ護れちゃいない」
「…なんつー…かお…してんだ………勝てよ……オールマイト…!」
「私は君だけではなく、彼からも護られてしまっていた」
“譲受”という個性を持っていた君の奥さんの千春さんとオール・フォー・ワンとの関わりを断つべく君はヒーロー社会と距離を置こうとした。
だが最高のパートナーであった君を私は手放したくなかった。
そんな私のわがままを…君たちは受け入れてくれた。
「…私はこの子に幸せになって欲しいんです。普通の人生を生きて…大切な人に出会って笑って生きてくれたらそれで十分です」
「父親として…一プロヒーローとして───ハルの人生…何を願ってあげるのが一番なんだろうね」
ハル少年の個性が“譲受”だと判明した時、親心としてはヒーローを諦めて欲しかったんだろう。
だが、君も千春さんも優しい人だ。
ヒーローに憧れたハル少年が健気に頑張ろうとする姿を否定しなかった。
そして私も……
「オールマイト!」
「!」
「俺も将来すっごいヒーローになる!!皆を救けて笑顔にする!!」
「…そうだな!君は素敵なヒーローになれる」
そんな彼にナチュラル・ボーン・ヒーローの素質を感じた。
だからこそヒーローになって欲しかった。
「だが…!!」
「!」
「もう一度チャンスをくれないか?今度こそ…私が護る!例えこの命に替えても必ず───!」
「やめてくれ…」
「!?」
言葉を遮って義孝はじっとオールマイトを見つめる。
昔と変わらないまっすぐな瞳に思わず目を逸らしそうになるがそれを堪えたオールマイトはまっすぐ義孝の目を見続けた。
「ハルには貴方が必要だ。それに俺にも……」
「!」
だから───
「貴方も生きてくれ、オールマイト」
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