◎ 平和の象徴(4/5)
「……愛してるわ、ハル」
「全部……全部俺の弱さが招いた結果だ……」
優しい笑顔も、
温かいあの空間も、
目の前にいるこいつに奪われたのか?
「
あああああああ!!!」
頭の中の何かが切れたかと思うと無我夢中にオール・フォー・ワン目掛けて走り出していた。
その時は痛む身体も霞む視界も関係なく、ただ純粋な怒りと憎しみが支配して、もう動くはずのない身体の最後の源動力となっていた。
だが振りかざされた拳がオール・フォー・ワンの眼前でピタリと止まると“衝撃反転”により跳ね返されてしまう。
そしてオールマイトに向けられたものよりは遥かに威力は抑えられていたがオール・フォー・ワンの拳がハルのお腹へと殴りこまれていく。
「か、は………っ」
「ハル少年!!!」
血を吐きながら殴られたお腹を抑え地面へ倒れ込んでいく。
ハルは意識があるのが不思議なくらいの虫の息にも関わらずオール・フォー・ワンを睨みつけていた。
まだ死んでいないその瞳にオール・フォー・ワンは良いねと呟く。
オール・フォー・ワンはハルからオールマイトへ視線を向けると両手を広げながら言った。
「弔がせっせと崩してきたヒーローへの信頼。決定打を僕が打ってしまっても良いものか…でもねオールマイト。君が僕を憎むように僕も君が憎いんだぜ。僕は君の師を殺し、かつての盟友も瀕死へ追いやったが君も僕の築き上げてきたモノを奪っただろう?だから君には可能な限り醜く酷たらしい死を迎えて欲しいんだ!」
「でけえのが来るぞ!避けて反撃を────…」
「避けて良いのか?」
オールマイトの立つ後ろの瓦礫から物音が聞こえる。
横目で捉えた視界の先に瓦礫に下敷きされ身動きの取れない女性の姿。
「おい!!」
「君が護ってきたものを奪う」
オール・フォー・ワンの激しい攻撃をオールマイトは避けずに受け止める。
それによって背後にいた女性を護ることは出来た。
だが────…
「まずは怪我をおして通し続けたその矜恃。惨めな姿を世間に晒せ。平和の象徴」
土煙の開けた先、そこにいたのはガリガリでかつての面影などないトゥルーフォームのオールマイトの姿。
「頬はこけ、目は窪み!!貧相なトップヒーローだ。恥じるなよ。それが本当のキミなんだろう!?」
頭上には報道用のヘリコプターも飛んでおりこの戦いが生中継されている中、オールマイトが隠し続けていたトゥルーフォームも世間へと晒されてしまった。
テレビの前では“平和の象徴”の変わり果てた姿に言葉を失い、本当に倒せるのかと絶望にも近い空気が漂うものも。
だが…オールマイトは変わらない瞳でオール・フォー・ワンを睨みつけた。
それを見たオール・フォー・ワンは納得したように呟く。
「…………そっか」
「身体が朽ち衰えようとも…その姿を晒されようとも…私の心は依然平和の象徴!!一欠片とて奪えるものじゃあない!!」
ボロボロながらもいつものように笑い拳を握りしめる。
姿形は変わろうともオールマイトの言う通り、彼は社会を護り続けてきた“平和の象徴”そのものだと知らしめた。
「素晴らしい!まいった。強情で聞かん坊なことを忘れてた。じゃあ“これ”も君の心には支障ないかな…あのね…………」
死柄木弔は志村菜奈の孫だよ。
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