◎ 誰が何と言おうと(2/4)
場面は変わり敵連合アジト。
そこには野狐を除く敵連合の面々7名と椅子に拘束され眠らされている爆豪とそんな爆豪とは一変ソファに寝かされブランケットをかけられ眠っているハルの姿があった。
荼毘がアジト内を見渡した後、死柄木へ声をかけた。
「野狐は?」
「あいつは外出中だ。落ち着かせるまでハルとは会えないってな」
「…………(やっぱあいつに任せなくて正解だったか)」
アジト内のテレビには雄英生徒誘拐事件と題された特集が流れておりそれを見た死柄木がそろそろ起こすかと口を開く。
するとげんなりした様子でトゥワイスが言葉を漏らす。
「またこいつ暴れるぞ…」
「本当に手の付けられない問題児だったわねー」
「ハルの方は良いのか。連れてきてから一向に意識が戻る気配はないが」
「心配するな。個性を使いすぎただけで時間が経てば目を覚ます」
死柄木はハルの近くに歩み寄ると顔をじっと見つめる。
敵地でありながらすやすやと無防備な寝顔のハルになんとも言えない気持ちが芽生えつつ、頭の中で死柄木が“先生”と呼ぶ男とのやり取りを思い出す。
「死柄木弔。今回の襲撃で水科義晴も連れてきて欲しい」
「……何故だ?」
「彼は…そうだねえ───僕らの目的を遂行するための鍵になる。一度事前に僕も見ておきたいんだ。それにあの子の過去もなかなかのものだ。彼の中で眠っている野心を呼び起こせばきっと君たちの力になるはずだよ」
「……………」
なぜあれほどの過去を持ちながらヒーローを目指すのか……俺には理解できない。
こいつはまだ何もわかっちゃいない。
社会は簡単には変わらない。
今までのやり方では変えられない。
だから──── 一度全て壊すべきだ。
「…………準備するぞ」
◇
神野市内雑居ビルが面した路地裏に頭を抱えて、しゃがみこむ野狐の姿があった。
狐面で表情こそ読み取れないが肩で息をし、首筋には額から流れ落ちた冷や汗が滴っており、ただならぬ状態ということは一目瞭然だった。
『なんで思うように動けない』
『こいつには手を出すな』
『おまえは────』
一体誰だ。
「……ははは。やっと目ぇ覚めたかよ」
敵連合はハルと爆豪を連れ去る目的を達成し、襲撃は成功に終えた。
だがその日…ハルと会敵して以来、俺の中で眠っていたあいつが起きた。
「久々の再会はどうだった。ヒロ」
『……俺はこんな形で会いたくなかった。それに───…』
「!」
『あいつはこんなとこいちゃいけない』
俺の意志とは関係なしに動こうとする体を無理やり制止する。
やっぱこいつのトリガーはハルか。
どんだけ大切なんだよ……さすが幼馴染ってとこか。
別に口に出さなくても頭の中で会話できるのは便利だけど…一つの体に二つの精神というのはやはり無理があるのか気持ち悪くて仕方ない。
常に誰かから見張られ、囁かれるようなそんな感覚に襲われる。
『今すぐハルを解放する……邪魔すんな。行知 汐(ぎょうち しお)…!』
「まーまー熱くなんなよ。手段は違えど俺らとハルの目的は同じだ。まずはハルの意志を聞いてからでも良いだろ」
『………………俺は────』
「宿題忘れたって……仕方ないな〜…」
「今週のジャンプ見た!?もうあの展開が熱くてさー!」
「ヒロ!」
『あいつには“普通に”生きていて欲しいんだよ』
「…………」
ヒーローに人並みの幸せなんてあんのかね。
…ま、少なくとも敵になるよりはあるか。
今の平穏は誰かの善意によって守られている。
善の反対は悪じゃなくまた違う善だ、なんて誰かが言ってた言葉だけど俺もそう思う。
ヒーローは“善”でヒーローと敵対する奴は“悪”という常識がひっくり返った時どうなるんだって話だけど、ヒロにとっては裏切られても自身が敵という立場にいてもヒーローは“善”という認識なんだな。
なんつーか……皮肉なもんだな。
「俺も父さんみたいなヒーローになる!だから見てて!」
「……ああ。おまえにも期待しているよ汐」
俺もおまえも始まりは“ヒーロー”で、
その道を歩いていたはずなのに知らぬ間に道を間違えてしまった。
でもそれに気づきながらも違った道を進み続けるしかない。
「………ま、長い付き合いになるかもしれんし物事は穏便に───…仲良く行こうぜヒロ」
俺らは普通にも当たり前にもなれなかった。
ならばせめて特別な人間になりたいと思った。
『…………』
もし特別な人間になれない時はさ、自分らを認め合える人間集めて大丈夫だって錯覚しあおうぜ。
『………早く体返せよ』
「うおっ。勝手に動こうとすんなっての…!」
きっと俺らは仲良くなれると思うんだ。
prev|
next