◎ 君だってわかるだろう(5/6)
「君が寝込んでる間、リカバリーガールにかなり強めの治癒を施してもらったから動かせると思うが…グッチャグチャだったよ。この短期間で何度も大怪我してるけど君ね、ぶっちゃけ今回のは比にならん程重いよ」
ギプスを外した腕は至る所に傷が残っており、動かすとまだ痛くて今まで通り元に戻るには時間がかかりそうなのを悟った。
真剣な眼差しで説明する医師に対して生唾を飲みながら僕は比にならないと言った真意を探る。
「君の今までのカルテ特別に借りたんだけど毎度内側から爆竹が爆発したような壊れ方してんのね。で、今回のは特に酷いのよ」
人の体というのは本来80%程度のパワーしか出せないようリミットがかかっている。
だけど今回の洸汰くんを守るときみたく危機的状況に陥った時にリミッターを外して100%の火事場の馬鹿力を出せてしまう時がある。
「リミッターがあるって事はそれ体が負荷に耐えきれないからってことよね?今回の君は恐らくその“馬鹿力”状態でパワーが噴出…それも長時間続いた」
「…………」
「骨、筋肉がボロボロなのもマズいが…何より靱帯ね。靱帯は関節を保持するとこ。…そこが酷く劣化してる。つまりね…あと…どうだろう。二度三度か…同じような怪我が続けば腕の使えない生活になると思っといて」
腕の…使えない生活……?
「あと……聞きたいことあったんだけど、その怪我現場で誰かに治癒してもらった?」
「え……どうしてですか?」
「その怪我なら靱帯もこのレベルじゃなくて切れてたり、神経やられててもおかしくないのね。だけど不自然にそこだけ他の箇所に比べて損傷が少なかった。普通なら有り得ない症例だから“個性”による治癒がなされたのかと思ったんだけどね」
「…………!」
「………俺に怪我を“譲受”させてくれ」
「このままじゃ腕動かなくなってヒーローになれなくなるぞ」
ふとハルとのやり取りが頭に浮かぶ。
すると僕になんとも言えない気持ちがおしよせてきて歯を食いしばり、痛む腕をお構い無しに拳を握りしめた。
「(なんだよ…なんだよそれ……)」
僕の怪我を“譲受”させなければ、
あの時君を一人で行かせなければ、
ハルは救けられたかもしれない。
一緒にいた僕ならそれができたはずなのに、
できなかったからずっと後悔していた。
だけど────
ハルが僕の怪我を“譲受”してくれたからこれからも今まで通り腕を使える。
あの時ハルが行ってくれたから火事の被害も当初よりも抑えることが出来て、耳郎さんも救かって最悪の事態を免れた。
何が正しくて、あの時どうすればよかったのか……僕にはわからなくなってしまった。
「リカバリーガールさん呆れてたよ……。きっと沢山怒られてきたんだろうね」
医師は胸ポケットから一枚の紙を取り出す。
開いてみるとそれは洸汰くんからの手紙で「ごめんなさい」と「たすけてくれてありがとう」と書かれてあった。
「ただ君に救けられた人間はいる。病は気から…あんま思い悩まず前向きにね」
「(洸汰くん…)」
……きっと何が正しくて正しくないかなんて人によってすり替わっていく。
ならば自分を信じて行動するしかない。
「もしもしお母さん?うん…退院…でもちょっと用があって帰るのは明日かあさっ……うんうん…動けるようにはなってるよ。体怠い感じだけど───かなり強めな治癒を施して貰ったみたい。雄英的に生徒を遠くに置いておきたくないっぽいみたい。それとマスコミ対策みたいな事又聞きした」
《…………出久。雄英行かなきゃダメ……?》
「………!」
これから…僕が取るべき行動────
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