◎ ヴァリアーの足音(1/6)
あれから数日後。
葵たちは修行に精を出しており、各々がそれぞれの師匠達と特訓を重ねた結果、数日前とは比べ物にならないほど成長を見せていた。
葵も千李に一撃入れてかからは模擬戦闘だけでなく、戦闘において弱点となりそうな癖の修正や様々な状況に応じた対応方法といった具体的な指導を受けていた。
その結果、葵自身も数日前とは見違えるほど強くなっており、その表情からは自信も感じられるほどまで成長していた。
そんな姿を見て大丈夫だなと安堵の息を吐くと赤くなった夕空を見上げながら言った。
「んじゃ、そろそろ帰るか」
「うん。今日もありがとう」
沢田家へと続く帰り道。
いつもなら何気ない会話が繰り広げられるのだが今日は何故か神妙な面持ちを浮かべながら千李が口を開いた。
「……葵」
「?」
「……ごめんな」
「へ?」
突然の兄からの謝罪に思わず葵は呆気に取られてしまう。
そんな様子を見て切なそうに笑みを浮かべるがただならぬ何かを感じた葵は恐る恐るどうしたの?と尋ねた。
「前に話したけど夜空のリングのこと────」
「!」
「オレもどんな代物かはわかってない。だけど…ノットゥルノファミリーの事件みたく、これを機にお前を狙う輩がまた現れるかもしれねえ」
今度こそ護れるようにオレも強くなった。
だから安心してほしいって本当は言いたかった。
だけど……
「お前ばっかり…過酷な運命背負わせちまってごめんな」
「…………」
オレがどれだけ力をつけて、お前を護れるまでになったしても……お前は優しいやつだから俺の戦う姿を見る度に心を痛めるだろう。
いつも傷つくのは当事者の葵ばっかだ。
「…やだな〜!急に何言い出すかと思ったら」
「!」
葵は一歩前に出たかと思うとニッと笑いながら振り返る。
意外な様子に千李は目を丸くして驚きを隠せずにいた。
「確かにいろいろあったけど…大丈夫だよ!」
「!」
「どんな未来が待ってても大丈夫!もし運命ってやつが邪魔してくるなら…全部乗り越えてみせるから!」
「…………」
底抜けに明るく笑うその姿に自分の心配は杞憂だったと千李も笑みを浮かべた。
根拠なんて何もない言葉にも関わらず、やけに自信満々に言うもんだから本当に大丈夫なんじゃないかと錯覚するほどだった。
「ああ。きっと今のお前なら大丈夫だな」
もう独りじゃない。
周りにはたくさんの人がいて、葵のことを助けてくれる人がいる。
少し寂しいような気もしたけど嬉しい気持ちの方が強かった。
小さな手が離れて大きくなっていく。
こうやってみんな大人になっていくんだ。
「(だけど……もう少しだけ見守らせてくれよな)」
父さんにも、母さんにも、出来なかったこと。
代わりになんてなれっこないのはわかってるけど、兄ちゃんの特権使わせてくれよな。
◇
「この街に…ハーフボンゴレリングが」
「スクアーロが嘘をついてなければ間違いないね」
どっぷり日も沈んだ並盛のビルの屋上に立つ影。
背中に8本もの剣を携えるレヴィとリボーンと同じ赤ん坊でヴァリアーの制服を纏い帽子を深く被ったマーモン。
その背後には部下と思われる人間が数人膝をついて待機していた。
「マーモン。念写を頼めるか?」
「非常事態だもの。仕方ないね。つけにしておいてあげるよ。レヴィ、君のリングは確か…」
「雷だ」
「うむ。じゃあもう片方の雷のリングを探せばいいわけだ。いくよ」
マーモンは腰につけていたトイレットペーパーを1枚ちぎるとそこに向かって思いっきり鼻をかむ。
その様子にレヴィはいつみても汚いなと漏らしつつ、マーモンのかんだトイレットペーパーの鼻水は地図のような形になっておりそれをみながらマーモンは言った。
「南に205m。西に801mの地点だ」
それを聞いたレヴィはマーモンの指し示す方角を確認すると背後にいた部下達に言った。
「これよりヴァリアー・レヴィ雷撃隊。雷のリングの奪還に向かう」
それを聞いた部下達3人はざっと立ち上がるとレヴィの次の指示を待つ。
「リングの所持者及び邪魔する奴は────消せ」
そう一言告げるとレヴィ達は夜の並盛へと消えていった。
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