◎ 君に必要なもの(4/6)
翌朝、ツナはあくびをこぼしながら一階へと降りていく。
台所には奈々がいて、朝食の準備をしていた。
早速自分も朝食を取ろうと椅子に座ろうとした時、机の上にはすでに食べ終えた食器たちが並んでいた。
「葵君今日早起きだったのよ。もう家出たみたい」
「もう家出たって…まだ朝の7時だよ!?」
普段自分と同じくらいの時間に家を出ているのに今日はいつもよりやけに早い葵の出発を気にしつつも奈々が用意してくれたご飯を食べる。
「ツナ、ありがとう」
「…………」
昨日自分に見せてくれた笑顔が浮かんできて、思わずツナも笑みが溢れる。
全く乗り気ではなかったし、今もヴァリアーと戦うことには反対だったのに、葵が頑張っていると思うと自分も頑張ろうと思えて、そんな不思議な気持ちを抱えながら自分もリボーンとの修行の準備を進めた。
◇
「………ふう…こんなもんかな」
「早くから性が出るなー」
「!」
木の上の方を見ながら額から流れる汗を拭う葵に声をかける千李。
すでに時刻は9時で集合時間になっていたことに葵は気づくと少し慌てたような仕草を一瞬見せたが、千李のじーっと見つめる視線に気づき、わざとらしく咳払いをして何でもないと誤魔化した。
そんなあからさまな誤魔化し方に千李は思わず吹き出すが何処か満足そうな笑みを浮かべた。
「んじゃ早速始めるか」
「うん」
千李の声かけと共に二人は臨戦体制に入り見つめ合う。
今までであれば鋭い千李の視線に耐えきれず葵は目を逸らしてしまっていたが今日は違った。
真っ直ぐと千李を見つめて続け、今までの自信のなかった表情とは違い、どこか覚悟を決めたような面持ちに思わず千李も生唾を飲み込んだ。
「(今日はやけにやる気じゃん…)」
「!」
先に動いたのは葵。
千李に向かって得意の肉弾戦を仕掛けていくが、今までのように簡単にいなされてしまう。
「おいおい。馬鹿の一つ覚えじゃねーんだから」
「(今まで兄さんにはオレの弱点を知られているってばかり思ってた。だけどそれだけじゃない)」
「!」
「(オレだって兄さんとたくさん手合わせしてきた)」
葵は千李の左側に回り込むと攻撃を繰り出していく。
そういうことかよと呟くと千李は今までより少し遅れながらも攻撃を防いでいく。
「(眼帯で見えてない左側は兄さんの弱点…!そこをついていく!)」
「相手の弱点をついてくのは戦いのセオリー。だけど────」
「!」
「あからさまに弱点になるところ対策してないわけないんだよな」
左目は眼帯をつけていて死角になっているはずにも関わらず、左から来る葵の攻撃を軽々と防いでいく。
これが考えてきた策か?と問いかけて来る千李に対して葵はふっと笑みをこぼす。
「んなわけないじゃん」
「ふーん…」
自分の右拳を受け止めた千李の左手の手首を逆の左手で掴み捻り上げて離させるとそこで出来た隙をついて解放された右手で腕を掴んでそのまま背負い投げをお見舞いする。
だがそれを読んでいたと言わんばかりに空中で身を翻し、葵の拘束を逃れると空中で回転して地面への殴打を逃れていく。
甘いと余裕そうな表情を浮かべる千李が捉えるのは同じく余裕そうに小さく笑みを浮かべる葵の姿。
その疑問を解決する間も無く、千李が地面に着地した瞬間突然地面が崩れていく。
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