◎ 見えてなかったもの(2/5)
「学校の屋上とは懐かしいな。好きな場所だぜ」
鞭を構えながらディーノは嬉しそうに呟く。
そんなディーノを睨みながら雲雀は挑発するように言った。
「だったらずっとここにいさせてあげるよ。はいつくらばせてね」
まず攻撃を仕掛けたのは雲雀。
冷静にディーノは動きを読み取り避けつつ、鞭でトンファーを受け止めるとニッと口角を上げた。
「その歳にしちゃ上出来だぜ」
「何言ってんの?手加減してんだよ」
鞭で受け止められた方とは違うトンファーを振りかざす。
ディーノはそれを避けるが、すぐに雲雀は体制を建て直し体の回転を利用しつつ鞭を解いたトンファーを振りかざした。
「(こいつ…末恐ろしいガキだぜ)」
「ほーう…」
ディーノと一緒に来ていた部下のロマーリオも雲雀の戦闘能力の高さに声を漏らす。
「(だからこそツナのファミリーには絶対に必要。手を出すまいと思っていたが…)しょーがねえ」
「甘いね」
ディーノが繰り出す鞭での攻撃を雲雀は軽々と避けていく。
「死になよ」
そしてトンファーで殴りかかろうとした時だった。
殴ろうとしたトンファーを持つ腕が鞭によって拘束されており動かない。
「!!」
「おまえはまだ井の中の蛙だ。こんなレベルで満足してもらっちゃ困る」
「…………」
「もっと強くなってもらうぜ、恭弥」
「やだ」
「なっ!?」
雲雀は空いたもう片方のトンファーでディーノを殴りつける。
トンファーはディーノの頭を捉えて思わず尻もちを着いてしまうが…
「てってめーなあ!」
「(直撃を避けた…?)」
「……(さてこのじゃじゃ馬、どうやって手懐けようか)」
先程と同じようにその様子を伺っている男は嬉しそうに小さく笑みをこぼす。
「それでいい。おまえ達はどんどん戦え」
◇
あさり組と提灯がぶら下がる立派な道場。
その場内を物珍しそうに剣道用の防具をまとい手には竹刀と面を持ちながら山本は辺りを見渡した。
「へーこんな道場あるなんてな。オヤジが昔剣道やってたのは知ってっけど今でも来んのか?」
「…………」
山本の問いに剛は神妙な面持ちのまま答えることなく中へと進んでいく。
そして山本が面をつけて準備を進める一方で、剛は服こそ着替えたものの防具を身につける様子はみられない。
「オヤジ防具は?」
「必要ない」
「む…無理すんなってオヤジ〜〜ケガすんぞ」
「武。この日が来ちまった以上、父ちゃんは持つ剣技すべてをお前にたたき込むつもりだ」
背を向けていた剛がゆっくりと山本の方に振り返る。
普段とは違うビリビリとした雰囲気に山本は生唾を飲み込む。
「だが忘れてくれるなよ武───…父ちゃんの剣は……おまえの野球と同じよ」
「……?」
「
ごっこじゃねぇんだ!!!!」
開始の合図もなく剛は竹刀を振りかざしながら山本へと襲いかかる。
いきなりのことで避けきれず面に一撃加えられてしまい、その衝撃で山本は倒れ込んでしまった。
その様子をまた男は見ていた。
「そうだ。山本武…おまえの剣に足りないのはそのすさまじき気迫よ」
◇
「師匠」
「……」
「コロネロ師匠」
「なんだ。コラ!」
「もう半日こうしているぞ。いつトレーニングが始まるのだ?」
了平とコロネロは地面に大の字に寝転びながら空を眺めていた。
するとコロネロはそんな了平の問いに対してもうトレーニングは始まっていると答えた。
「体を鍛えるのをやめるトレーニングが」
「なっ何を言っているのだ!?それでは強くなれんぞ!!」
「普通はな。だがおまえの場合、パワーはもう充分だぜ」
「なっ」
「おまえに必要なのはもっと別のもんだぜ。寝てろ。コラ!」
了平は納得はしていなかったがコロネロが言うならとまた同じように寝転ぶ。
その様子を見た男は呟いた。
「“晴れのリング”にふさわしい資質に気づくとはさすがアルコバレーノ…奴が開花すれば大きな戦力になる」
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