◎ まろうど(1/4)
《俺を見ていてくれ》
車についているテレビでエンデヴァーの宣言をヘルパットは見つめていた。
すると近くに置いていたスマホが鳴る。
手に取り画面を確認すると《デーマンド》の文字。
ヘルパットはそれを見ると少し渋い顔を浮かべつつ応答ボタンを押す。
《お前今どこにいる!!》
ボタンを押すや否や耳をつんざくようなデーマンド大声が車内に響き渡る。
余りの大音量にヘルパットは思わずスマホを離すと耳に指を突っ込んだ。
「開口一番それかよデーマンド」
《今日ビルボードチャートなの知ってるだろう!所長のお前が来なくてどうする!?》
「えーだって俺数百位とかでランク外だし。なら20位のデーマンドだけで十分だろ?…てかあれか。一人で会場行くの嫌だったんだろ。人見知りだもんね」
ケラケラと笑うヘルパットにデーマンドは図星をつかれていた。
「いい加減自信持ちなよ。お前の頑張りを皆が見ていて、認めている。その結果がこれだ」
《……俺一人ではなし得なかった結果だ。お前がいてくれたから俺は────》
「あーそういうのなしなし。せめてTOP3に入ってからにして」
《そうやってすぐお前は話を逸ら────》
《あっれー?デーマンドさんじゃないっスか。誰と話してるんですかー?》
デーマンドの話を遮る男の声。
聞き覚えのある声にヘルパットはため息をこぼす。
《お。ヘルパットさーん。見えてますかー?》
《ホークス!おま…っ》
突然ビデオ通話になり、スマホの画面に笑顔を浮かべるホークスの姿が映る。
その後ろでホークスからスマホを取り戻そうとするデーマンドの姿も見えた。
普段のヘルパットであればその様子を見て笑うのだが、何故か真顔のままホークスを見つめていた。
向こうには聞こえないよう溜息をつき頭を掻きむしるといつもの笑顔を貼り付けて自身のカメラを付けてホークスに手を振った。
「久しぶりだなホークス。No.2おめでとう」
《ありがとうございます。ヘルパットさん今どこにいるんですか?挨拶したいなーと思ってたんですよ》
「残念ながら会場にはいないよ。バタバタしててね」
《あ〜花府事件の対応ですか?プロヒーローが薬物ばら蒔いてて、一般市民に罪なすり付けてたっていう…ほんと物騒ですよね。にしても───どうして2年も前の事件なのにあなたが急に動いたんですか?》
ホークスは口元に笑みこそ浮かべているものの、鋭い目付きで画面越しのヘルパットを捉える。
その異様さはデーマンドも察するくらいであったが、ヘルパットはいつもと変わらぬ様子で答えた。
「たまたまだよ。別件調べてる時にこの事件と上手いこと噛み合っただけ」
《へえ…別件ねえ……》
「で、要件はなんだ?暇じゃないだろ。No.2」
《おっと。そうでした。聞きたいことがあったんですよ》
「なんだ?」
《脳無って覚えてます?》
《!神野で現れた化け物か?》
《ええ。俺の地元、今嫌な目撃談が増えてんですよ。東京の方ではどうなのか気になりまして》
そう言いながらホークスはにっこりと笑う。
そんなホークスに怯むことなくヘルパットも笑顔を崩さず言った。
「神野で格納されていた数十体をオール・フォー・ワンもろとも捕らえ、それ以降連合に動きはあれど脳無の出現は確認されていないはずだけど?」
《あれで全部だった、もしくはまだあるけどオールフォさんしか場所知らない、のどちらかの見解みたいです》
「だね。なに?それ以降ホークス目撃したの?」
《してたら大ニュースになってますよ〜》
ホークスはケラケラと笑う。
「そらそうか。なら、なにさ。確証のない噂話が気になってるの?らしくないな」
《今までならね。でも今は違う。オールマイトさんが引退し、社会が不安定な今だからこそですよ。どっかのアホウが不安を煽る目的でホラ吹いて、全国に伝播させようとしている》
「…………」
《……“異能解放線戦”》
ホークスの顔から笑顔が消える。
《大昔の犯罪者の自伝が再販されてけっこー売れてるんですって。ヘルパットはご存知で?》
「…………」
真剣な表情で問いかけるホークス。
ヘルパットは少しの沈黙の後、頭を掻きながら言った。
「知ってるよ。なんなら読んだ」
《へえ……どうでした?》
「“抑圧”ではなく“解放”を───まあ…この社会の中で数ある主張の一つだ。興味があるなら一度読んでみたら良い」
《……そうですね。今の仕事落ち着いたら読んでみますよ》
ホークスはヘラヘラと笑う。
そんな様子にヘルパットはふうと息をつく。
「ちなみに脳無の噂の件だが東京でも耳にする。でもあくまで噂で実害どころか接触すら報告はない。ホークスの言う通り、どこかの感化された誰かが流した噂ってスジが濃厚だ」
《……ありがとうございます。俺の方でも調べてみるんでまた何かあったら教えてください》
では、と別れを告げるとホークスはスマホをデーマンドに返すとその場から離れていった。
その様子にヘルパットはまたため息をこぼす。
「ほんと嵐みたいなやつ。あんなんじゃ敵作るぞー」
《お前、ホークスとは知り合いか?》
「一応な。くそ生意気な後輩くんだ」
《……随分仲が良いんだな》
「は?どう見たらそう見えるんだ」
《ん?》
「……(明らかに俺に対して敵対心丸出しだっただろ…この天然め)」
こんなんで大丈夫か……とデーマンドに聞こえないくらいの声で呟く。
「……あ、そうだ。別件なんだけどさ」
《ん?》
「彼へのプレゼントこれから買うんでしょ?せっかくならさ───…」
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