アトラクトライト | ナノ

 メッセージ(6/6)



「来てたの」

「!」



剛翼で音を聞き分けてることに集中していたとはいえ、声をかけられるまで気配に気づかなかった。
聞き覚えのある声にホークスは一瞬冷たい表情を浮かべたが、すぐさま笑顔で振り返る。



「さっき戻ってきたんです。解放思想の浸透をね」

「熱心だな。ご丁寧にマーカーまでひいて────」

「……」



いつの間にかホークスの手元から抜き取られた本をペラペラとめくりながら男は笑う。
その様子をホークスは悟られない程度に警戒しながら探った。



「ちゃんと読めばわかる。よく理解してる証拠だな」

「…どーも」



ホークスは目の前の男に対して苦手意識を感じていた。
のらりくらりと立ち回り相手の懐に入り込むことが上手いが、警戒心が強く自身の内心を全く見せないため思考が読めない。
まるで自分を見ているようだ、とホークスは彼の攻略に難航していた。



「で、俺になんか用スか?ヘルパットさん」



ヘルパットは持っていた本をパタンと閉じるとホークスに渡しながら笑った。



「たまたま見かけたから声かけただけだ。忙しいところ悪かったな」

「いえいえ。忙しいのはお互い様でしょ。互いに布教活動頑張りましょうね」



そう言ってホークスは本を受け取るとその場を後にした。



「(まさかヘルパットさんが元異能解放軍メンバーだったとは……いや彼だけじゃない)」



一般人だけでなく多くのヒーローもメンバーとなっている。
戦力的な課題もあるが、なによりヒーロー社会における重大な信用不信に繋がりかねない。
なんとしても食い止めなければとホークスは拳を握りしめた。







「…………」



歩いていくホークスの後ろ姿をヘルパットは振り返り見つめていた。



「(…次は俺の番か───)」



その時ヘルパットのスマホが振動する。
ディスプレイに表示された名前を見るとヘルパットは困ったように笑い息をつく。



「もしもーし。どうした?デーマンド」

《お前がいない間に担当していた案件についての報告だ》

「─────はい、おつかれさま。流石だね。もう俺がいなくても大丈夫だな〜」



ケラケラ笑うヘルパットとは裏腹に電話越しのデーマンドは口を噤む。
彼の心情に気づきながらもヘルパットはあえてそれに触れることはせずさっさと切り上げようとしていた。



《ヘルパット。インターンの話聞いたか》

「ああ。ハルからも連絡来てたけど…悪いことしちゃったな」

《あいつの実力を鑑みるに俺たちだけでも受け入れられたと思うが…》

「…………」



確かにデーマンドの言う通りハルは実力があり、俺がいなくてもデーマンドたちと難なく案件をこなすだろう。
俺も彼のことはかっている。
だからこそ今までやり方のままじゃダメなんだよ。



「って言ってもまだ学生だ。なんかあった時にお前たちに責任は負わせられない」

《それは……そうだが───》

「とにかく今は自分に課された仕事に集中しろ。あの地域の平和はお前らにかかってるんだから…俺の言いたいことわかるよな?デーマンド」

《ああ》



窓の外では灰色の厚い雲から雪がチラつく。
あっという間に季節はめぐりもうこんなにも寒くなった。


《俺からも一つ…お前に言いたいことがある》

「(おっとこれは……)」

《ちゃんと寝ろ。しっかり飯を食え。以上だ!》



オカンのような口ぶりのデーマンドに思わず吹き出す。



「ありがとうなデーマンド。お前がいてくれたら安心だ」

《……ああ》

「ここが正念場だ。もうちょっとだけ頑張らせてくれ」





次の桜が散る頃に、

皆が笑っていられるように。






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