◎ 冬休み(8/8)
「ハル寒くない?」
「うん。湯たんぽのおかげでぽかぽか」
「ならよかった」
そう言って緑谷は笑うと部屋の電気を消す。
緑谷家で過ごした半日はあっという間で、おばさんもすごく良い人で楽しかったなあ…。
この親にしてこの子ありってやつだ。
布団に入ってからも俺たちは何気ない会話を続けた。
学校のこと。
インターンのこと。
オールマイトのこと────
「そういえばハルってオールマイトとどこで出会ったの?昔から知ってるような感じだけど」
「オールマイトも会ったのは小学4年生の時…7年前だな」
「そんなに前から!?」
「オール・フォー・ワンと対峙する前だから全盛期の頃だな。今よりもっとキラキラ───いや、ギラギラしてた」
「うわあいいなあ…。小学生かあ…その時はあんまりお小遣いもなかったからお菓子についてたステッカーを集めてたよ」
「それってヒーローズチップス?」
「そうそう!オールマイトのレアカードが当たった時はすごく嬉しかったなあ。今でも宝物だよ。そういえばかっちゃんも同じ時に引き当ててたなあ。すごく嬉しそうだった」
カードを引き当てて飛び跳ねて喜ぶ爆豪と、その後ろで泣きながらカードを抱きしめる緑谷。
なんか容易に想像出来る光景。
「そういえばハルってプロヒーローは誰が好きなの?オールマイトが1番って感じじゃないよね。確か前に言ってたのは───」
「13号?」
「そうそう!確か麗日さんも好きだって言ってたよね」
「宇宙服を模したあの丸っこいフォルムがツボなんだよな。だけど1番好きなのは…………タカかなあ」
言ってみたもののこのヒーローを知っている人はほぼいない。
ヒーローオタクの緑谷と言えど流石に…も思ったけどそんな予想は容易に裏切られた。
「ウォーターヒーローのタカだよね!確かオールマイトのサイドキックの一人でメディアにはほとんど露出しないから情報は目撃証言のみ。だから存在しているかどうかもわからない都市伝説的なヒーロー……でも8年前だったかな?オールマイトが事件解決後のインタビューでその名を口にして実在する人物だとわかって当時すごく話題になってた!」(ペラペラ)
「…………」
そんな緑谷に一瞬圧倒されて、でもすぐに面白くなって俺は笑った。
「ほんっとうにすごい引き出しだな!」
「えへへ…。でもどうしてタカが好きなの?もしかして…ハル会ったことあるとか?」
「……まあそんなとこ。あの人、どんな時でも笑ってて、オールマイトとはまた違う安心出来る存在でさ。ヒーローは強いだけじゃない、人々がどうすれば笑顔になるかを一番に考えてて…俺もそんな風になりたいなって」
「タカはハルの原点なんだね。僕にとってのオールマイトのような」
「うん。憧れだし、絶対に追いつく」
そういいながら天井に手を伸ばし拳を握った。
◇
翌日、年末。
この日も天気が良くておばさんが作ってくれた朝ごはんを食べながら3人で談笑した。
そして昼前にチャイムが響く。
「相澤先生、おはようございます」
「おはよう。緑谷さん、1日ありがとうございました」
「とんでもないです。ハルくん、またいつでも来てね」
「!はい!」
「ハル、また明日寮でね」
「うん。緑谷もありかとうな。今日はゆっくり過ごして身体休めろよ」
「ハルこそ」
そういって俺たちは笑いあった。
帰り相澤先生の運転する車に揺られながら雄英に向かう道すがら先生が口を開いた。
「楽しかったか?」
「はい!おばさんも良い人で…昨日カツ丼作ってくれたんですけどそれが美味しくって」
緑谷家であったことを話していると信号で停止した時に先生は珍しく微笑みながら一言。
「よかったな」
「……はい!」
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