◎ 冬休み(2/8)
部屋の前に到着するとコンコンとノックしながら爆豪の名前を呼ぶとすぐに扉が開かれた。
相変わらずの怪訝そうな表情のまま俺に問いかける。
「なんの用だ」
「漫画探しててさ。峰田から借りたやつ持ってない?」
「漫画………」
少し考えるような素振りを見せたかと思うと何かを思い出したのかあ、と声を漏らす。
「切島に渡した。読んでたら貸せってうるせえからてめーに聞いたら読み終わったらそのまま渡せって言ってたろ」
「……言ってたわ」
またまたすっかり忘れてた。
次は切島のとこ行くかと思ってその場を離れようとした時、爆豪に引き止められる。
どうやら爆豪も切島に用事があるらしく、ついでに済ませてしまおうという魂胆らしい。
同じ階にある切島の部屋へ一緒に向かう。
すると爆豪は軽くノックをすると返事を待たずにガチャっと扉を開ける。
「おい切島、コロコロ返せや……あ?」
だが部屋の主はおらずもぬけの殻状態。
「いないな」
「サンドバッグ捨てにいくのに何時間かかってやがる」
そう悪態をつくとズカズカと部屋の中に入っていく。
そんな爆豪の後を追って俺も部屋の中に入った。
まだ部屋は掃除途中らしく床に置きっぱなしにされたコロコロを見るや否や爆豪は舌打ちをしながら拾おうとしゃがむ。
するとその時に何かを見つけたのかピタッと動きを止めた。
「どこを掃除しとんだ」
そういいながら放り出されていた長い柄の掃除器具をベッド下へ潜り込ませる。
するとベッド下にあったであろう大量のホコリを巻き込んで戻ってきた。
それを見て絶句している俺をよそに爆豪はチャチャッと掃除を済ませていく。
「ベッド下ってそんな汚いんだな……」
「はあ?あたりめーだろ。……お前まさかベッド下掃除してねえのか」
「…………」
この沈黙を同意と捉えた爆豪はありえねえと言った様子で俺を見てくる。
その視線がいたたまれなくて思わず俺は逃げるように部屋を見渡した。
すると自分を鼓舞するために切島が部屋に貼っている熱い文字の書かれた紙の近くの壁紙が剥がれていることに気がつく。
「あ〜ここ壁剥がれてんな」
「おい。話逸らす───ビリビリじゃねえか、あのクソ髪め…」
「(計画通り)」
「……切島の部屋で何やってんだ?お前ら」
瀬呂がきょとんとした顔で俺たちにそう尋ねる。
どうやらコロコロの替えがないか聞きに来たようだ。
「…ヘンな紙貼ってっから壁紙剥がれてんだよ、見りゃわかんだろーが」
そういいながら爆豪は華麗な手さばきで壁紙の補修を始めた。
面倒くさそうにしながらも器用に手を動かしてるのは流石というか…掃除までちゃんとできる才能マンすごい。尊敬。
そんな姿を見た瀬呂はニッと笑った。
「…爆豪、お前、万が一ヒーローになれなかったら何でも屋が向いてるんじゃねえ?」
「あ!それ名案」
「だろ?」
「あぁ!?無量大数の一にもそんなことはねぇわ!」
「いやわかんねーぞ。な?」
「うんうん」
爆豪をいじりながら瀬呂とニッと笑い合う。
だが爆豪は口で反論はしつつも手は動かしており、短時間で壁の修繕を完璧にこなしていた。
その仕事ぶりに俺と瀬呂は思わず拍手を送った。
「瀬呂、粘着テープは俺の部屋にあるからそれ持ってけ」
「ん?手に持ってんじゃん。お前部屋の掃除終わったんだろ」
「俺の部屋はな」
そういいながら爆豪は俺の腕をガシッと掴む。
「この寝坊助の汚部屋で使うんだよ」
「!俺掃除終わっ───」
言い終わる前に呆れた顔で爆豪は俺を見た。
「どーせ目に見えるとこしかしてねーんだろ。切島のベッドの下見ただろ。生きてるだけであんだけホコリたまんだよ。てめーの部屋はまだまだホコリまみれ。まっくろくろすけでも飼うんかァ!?」
「…………」
な、何も言えねえ……。
「行くぞ」
「待った!せめて漫画だけは回収し────」
「これだろ」
そう言った爆豪の手には探していた漫画が握られていた。
掃除をしながら漫画も見つけ出していたらしい。
くっそー…どこまでも要領良いな…!!
「行くぞ」
「瀬呂〜!」
「ああ…ガンバ!姑かっちゃんにキレイにしてもらえ」
「誰が姑だ!!!」
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