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 メリれ!メリークリスマス!(3/6)



「ハルさんのピアノジャーンって!キラキラって!」

「ああ。すごかったな」



文化祭のバンドで楽器を演奏してたから音楽に興味はあると思っていたが…まさかピアノも弾けるとは。
ヒーロー活動以外にも多くの人間を笑顔にする術を持っているのは悪いことではない。
現にエリちゃんも嬉しそうだ。

当の本人は大勢の人に囲まれたのもあって疲れているようだが。



「水科。まだ時間大丈夫か?」

「?ここからなら寮まで20分あれば着きますよね」

「寮ならな。片道1時間半…晩飯までは帰れるだろう」

「もしかして……」

「ああ。おまえさんの地元だ」



水科の親父さんは仕事の都合で年末年始は帰国しないらしい。
そのため2泊3日の帰省時期を水科は寮で過ごすようだ。

俺もエリちゃんがいるから寮に残るつもりだったが……それだけじゃない。



「相澤先生ありがとうございます。じゃあお言葉に甘えて…行ってきます」

「ああ。俺たちは良いからゆっくりしてこい」

「……はい!」



寮生活が始まる前に1-2ヵ月に1度地元へ帰って、母親と友達のお墓参りに行っていた。
寮生活が始まってからなかなか行けておらず、今回のように帰省もしないとなると年内に行く機会はそうそう取れない。
ましてや年明けからは────



「先生。ハルさんどこ行っちゃったの?」

「……あいつの大切な人達に挨拶に行ったんだよ。だから俺たちはゆっくり待とうな」

「…うん!」



水科はまだ若いのにいろんな苦難にぶつかっている。




「──────!!」




倒壊する建物に巻き込まれて亡くなっていった“アイツ”のことを俺は今でも思い出す。
大切な友を失って、自らの非力さに絶望し、前を向くことすら難しくなったこともある。

だが……。



「エリちゃ────…」

「すう……すう………」

「……………(確かトランクにひざ掛けがあったな)」



出口がない気がしてずっと苦しかったあの時…あの場所から俺を連れ出してくれたのはいつも周りにいる連中たちだった。
お節介だと思う時もあるが……それがかえって良かったのかもしれないと今ならそう思える。




「イレイザー。ご飯行こう」

「今は下を向いてていい。無理に顔を上げなくていい。…大丈夫。いつかきっと前を向いて歩ける日が来るから自分の気持ちに整理が着くまで温かいごはん食べて待ってたらいいさ」




「…………」



コンコン



「!」

「お待たせしました。あ、エリちゃん寝ちゃってますね」

「疲れてたんだろう。もう良いのか」

「はい。ありがとうございました!」

「そうか。早く乗れ。寒かったろ」



本当にお前は…あの人と同じ顔して笑うな。







「相澤先生もクリスマスはケーキ食べたりするんですか?」

「去年は山田……いや、マイクと一緒に忘年会も兼ねてメシ食ったな」

「へえ。先生ってお酒飲めるんですか?」

「まあ嗜む程度にはな」

「!!」



嗜む程度、って言えるの大人っぽくてかっこいいな……!!
俺もいつか飲めるようになったら言ってみたいかも。

そんな風に考えていると相澤先生はポツリと呟く。



「……水科はそこまで強くなさそうだな」

「ええ…なんでですか」

「お前の親父さん。お酒飲まないだろ?」

「…………」



その発言を聞いて先生は父さんとお酒飲んだことあるのかな?なんて思った。
確かに思い返してみたら父さんがお酒飲んでるところ見たことないな…。
ヒーローでいつ現場に出ても良いようにかと思ってたけど母さんが飲んでる時もいつもお茶とかジュースだったかも。



「あ!でも母さん強かったんですよ」

「そうなのか」

「はい。一人でワイン何本も飲んでたんですけど全く変わってなくて────」

「…………それはもしかしたらお前強いかもな」

「あははは」



いつか20歳になったら…A組のみんなとお酒飲んでみたいな。
誰が強そうだろ…あ、切島とか瀬呂とかは強そう。
反対に弱そうなのは…緑谷とか飯田とか?あ、常闇も弱そうかも。



「(ヒロは…あんまり強くなさそう。顔すぐ真っ赤にしてそう)」



窓から外を眺めるとちらりと雪が待っていた。
俺はエリちゃんのブランケットをかけ直した。



「(今年の冬も寒いから暖かくしてると良いけど……風邪とかひいてないかな。早く…迎えに行くからな)」





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