◎ 忘れないでいたいよ(6/7)
「!!!」
緑谷の動向をモニター越しで見ている中、俺の視点が一瞬暗転する。
夢か現実かわからない中目を開くとそこには頭にゴーグルをつけスキンペットの少し強面の男性が立っていた。
俺に気づくや否やその人は俺に詰め寄りながら言った。
「やーーっときたきたきた!坊主に言いたいことたくさんあんのよ!早くしてよ!!」
「??えっと……」
「ん?もしかしてなんも聞いてない?」
ったく…と男性は頭をガシガシとかく。
何が何だかわからないながらもその男性から緑谷やオールマイト、そして菜奈さんと同じ力を感じた。
そこから導き出される答えはただ一つ。
「もしかして……ワン・フォー・オールの継承者…?」
「!そうだ。俺は5代目。ヒーロー名は“ラリアット”。坊主が発現したのは俺の個性“黒鞭”だ!」
「“黒鞭”…」
その時、ラリアットの体が徐々に黒いモヤに包まれていく。
それに気づいたラリアットは少し急ぎながら俺に訴えた。
「時間がねえ。俺と坊主…9代目を“繋いでくれ”」
「!繋ぐってどうやれば────」
「ん?んなもんフィーリングだ!フィーリング」
突然の投げやりな回答にええ…と呆気に取られている俺にラリアットはがははは!と豪快に笑った。
「お前はすでに初代と7代目を繋いでんだ。難しいこと考えなくても出来んだよ」
「(と言われても……)」
でも感覚でやってるなら考えたってわかるはずない。
後は……どうにかなると信じよう。
「……お。きたきた!やればできんじゃねーの!」
「あ、ははは……(本当に俺なんもしてないけども……)」
「9代目にも伝えるつもりだが…もしもの時のためにおまえにも言っておく」
ラリアットは今まで以上に真剣な瞳を俺に向けながら話した。
「俺たちの因子は“力”の核に混ざってワン・フォー・オールの中にずっと在った。小さな核さ。揺らめく炎、或いは波打つ水面の中にある小さな点。培われてきた力に覆われる力の原子。そいつが今になって大きく…膨れ胎動を始めたさ」
そして、と言いながらラリアットは俺を指さす。
「揺らぎの隙間からおまえが時折見えた。そしてその先に見えたものが…ワン・フォー・オールそのものが成長している。それと不思議なことにワン・フォー・オールを継承している訳でもないのにおまえからは懐かしさを感じる。気味が悪いくらいによ」
「……それはきっと俺の個性…“譲受”の起源がワン・フォー・オールとオール・フォー・ワンだからだと……」
「それだけなら良いんだがな。俺にはおまえから……もっと強大なもんを感じる。初代の記憶に残る…あいつの気配そっくりだ」
「え?」
俺が聞き直そうとした瞬間、ラリアットの体が突然モヤに包まれていく。
残された時間はもう長くない。
そう悟ったのはラリアットも同じだっだ。
「いけねえ……小僧!今度こそ最後だ!」
「!はい」
「8人の人間を渡ってワン・フォー・オールはとてつもなく大きな力となった。いいか。9代目にはこれから6つの個性が発現するさ」
「!!!」
「9代目にも伝えておいてくれ!心を制して俺らを使いこなせ、とな!」
ラリアットの体がどんどん黒いモヤに吸い込まれていく。
だがそんな中でも彼は力強く笑った。
「そういやおまえ!名前は!?」
「!ハルです!」
「よーしハル!おまえはワン・フォー・オールの継承者でもなんでもねえ。いっちまえばただ巻き込まれただけの人間だ。それを不運だと嘆くも、チャンスだと捉えるも自由だ。だが俺から一つ言わせてくれ」
ラリアットは消えそうになりながらも俺に近づくと辛うじて残る右手を俺の肩にそっと乗せた。
「この先どんな運命(こと)が待っていようと自分を、信じた周りの奴らを見失うな。必ず生き延びろ」
「!」
「安心しろ。俺らもついてる。9代目の力になってやってくれ。ハル」
ラリアットを包み込んでいた黒いモヤが彼を巻き込みながら俺にも向かってくる。
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