◎ 忘れないでいたいよ(2/7)
「心操ー!」
「!」
「今日心操も参加してたんだな」
「ああ」
「聞いたぞ。1試合目、すごい活躍だったんだってな!」
流石だなーと俺は頷く。
だが心操はあまり嬉しそうではなく首に巻いた捕縛布を握りしめた。
「相澤先生から教わったことの1割もできてない。おまえとの戦闘訓練も活かせなかった。俺自身の実力でプロにならなくちゃいけないのに…悔しいけどまだまだだ」
「…………」
俺は心操の隣に立つ。
いきなりのことで不審がる心操を無視して背中をバシッと叩いた。
「いたっ」
「大人数での演習は今日が初めてだろ?これからこれから!」
「…………」
「一緒に手合わせさせてもらって思った。心操はもっと強くなる!きっとさ、自分の中の原点(オリジン)を見失わなければどこまでも突き進んでいけるよ。だから大丈夫!」
「!」
俺は心操から離れて目の前に戻る。
そしてニッと笑った。
「次だろ?頑張ってな」
「…俺B組チームだけど」
「あ!う〜〜〜〜ん…A組応援しなくちゃ…いやでも心操のことも……」
その時、心操はバッと俺から顔を背ける。
肩を震わす様子に一瞬心配になったけど、それが杞憂だとすぐに悟った。
「……っ」
「!今笑った?」
「いや。笑ってない」
スンといつもの顔を俺に向けて答える。
あまりの切り替えの速さに面白くなって俺の方が笑ってしまった。
「いーや笑った!」
「…………」
「おいおい。何楽しげに談笑してるんだい」
「物間!」
「心操くん行こう。悪いけど今から作戦会議だ。A組の君には聞かせられないなあ!」
「だな。引き止めちゃってごめんな。じゃ、俺モニターで見てるから頑張ってな!」
俺は物間と心操に手を振るとその場を後にした。
「…水科くん大人だったね。物間」
「庄田!早く作戦会議始めよう!!行こう心操くん!」
「ああ」
◇
緑谷・麗日・芦戸・峰田のA組チーム。
物間・庄田・子大・柳、そして心操のB組チーム。
どんな戦闘が繰り広げられるのかわくわくしながらモニターを見ていると隣に珍しく拳藤がやって来て声をかけてきた。
「水科はこの勝負どうなると思う?」
「あ、ハルで良いよ。B組のみんな苗字呼びしてくれてるけどこっちの方が呼び慣れてるから嬉しいかな」
「そうなんだ。じゃあハルで。他のみんなにも言っとくよ」
「ありがと」
俺は拳藤に笑いかける。
「子大の“サイズ”、庄田の“ツインインパクト”、柳の“ポルターガイスト”とテクニカルな“個性”の持ち主が揃ってて身を隠したままの攻撃手段が豊富。それにB組は心操を入れた5人だから白兵戦を仕掛けるメリットはない……」
「うんうん。それで?」
「一方のA組は麗日の“ゼログラビティ”、芦戸の“酸”、峰田の“モギモギ”と強力な“個性”ではあるけどいずれも接近戦が必須になるからどちらかというと不利かな。だからこそ緑谷が鍵になると思う」
高い機動力と攻撃力を兼ね備えた“ワン・フォー・オール”はとても強力だ。
きっと緑谷が囮になって不意をついて攻撃を仕掛けるのがA組の最善手。
でもそれはB組からもお見通しだ。
「その緑谷を抑えるには心操と物間の“個性”が必須。ここがどれだけうまく連携できるかによる。それに1戦目で心操大活躍だったんだろ?この勝負どっちが勝ってもおかしくない……!」
「私もそう思う。でも物間の“個性”には“スカ”があるからそこがどうなるか────」
「“スカ”?」
俺が拳藤に聞こうとしたちょうどその時、演習が始まる合図が響き渡る。
《第5セット目!本日最後だ!準備はいいか!?最後まで気を抜かずに頑張れよー!!スタートだ!》
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