アトラクトライト | ナノ

 繋がる思い(1/7)



一晩保健室にリカバリーガールの付き添いのもと泊まって体調が良くなってきた俺は授業の準備をすべく一旦寮に戻ることになったのだが────



「近くの病院の予約が取れたから午後から検査に行くよ。午前中は座学だけなら出ても良いけど体調が少しでもおかしくなったらすぐにここに来ること。いいね」

「でも俺もうへい────」

「油断大敵だよ。最近頭痛が続いていて、昨日は我慢出来ないほどの痛みだった……診てもらって何もなければそれはそれで良い」

「大袈裟ですって…」

「大袈裟なもんかい。私らは生徒たちを保護者から預かってるんだ。私らが護らなくてどうする」

「!」



ああも言われてしまうと言い返す言葉がなかった。
確かに一度診てもらって、何も無いってお墨付きもらえるのは安心だ。
もしその時は俺の体調管理が出来てないだけで……ちゃんと寝てるのになー。
枕合ってないのかなーそしたら疲れ取れるようになるかなー。

そんなことを考えながら寮に向かっていると人影が見えた。



「あ」

「!ハル!?」



俺の名前を呼びながら近づいてくる緑谷。
ジャージ姿なのを見るにジョギングでもしてたんだろう。



「もう体調大丈夫?」

「うん。心配かけてごめん。もう大丈夫なんだけど念の為に病院で検査する予定」

「そっか。何も無ければ良いけど…」

「緑谷随分早いな」

「!目が覚めちゃって……」

「…………」



頭に過ぎるのは昨晩見た夢。
まさかと思いながらも俺は緑谷に尋ねた。



「初代の夢?」

「!」



その言葉に緑谷はばっと顔を上げて目を見開く。



「やっぱりハルも…」

「やっぱりってことは緑谷と同じ夢を見ていたのか……」

「…………でもあれは夢というより────」







「初代の記憶…!見たか…!」

「(記憶……!)」



昼休みに緑谷と共に仮眠室でオールマイトに昨晩のことを話した。
すると緑谷とオールマイトは既にワン・フォー・オールについて話をしていたらしく話がどんどん進んでいく。

なんだか俺だけおいてけぼり。
とりあえず話の流れからなんとなくは察せられるけども。



「あれは…ワン・フォー・オールの記憶でもありました。“ワン・フォー・オールの面影”。オールマイトも若い時に見たんですよね」

「ああ。その後お師匠…私の先代から“面影”の存在を教わった。緑谷少年に成り立ちを伝えられたのも見たからこそさ」

「僕らが見たのは“与えられた”ところまでで…その後初代が話しかけてきました。僕にはまだ20%かって…特異点がどうこうって…」

「俺には…君が繋いでくれたとか、あいつの気配を感じる、見失うなとか……」

「随分不穏だな…初代の言う“あいつ”にハル少年は覚えは?」



俺は首を横に振った。



「オールマイトは体育祭の時そこに意思はないって言ってたけれどそうは思えなかったです……」

「…………私は経験しなかったしお師匠様にもそう教えられた。私の知る限りでは君だけに起きた現象だ。ただ…………」



オールマイトは言葉を続けることはなく顎に手を当てて考え込んでしまう。
俺らが名前を呼ぶとハッと声をあげながらも戻ってきてくれた。

ワン・フォー・オール。
歴代の継承者から紡がれてきた“個性”。



「(……というより“思い”?)」



オール・フォー・ワンという巨悪に立ち向かうため、
平和な社会を守り抜く為に紡がれてきた“力”。

強い思いを込めた言葉は言霊になるように、個性にも思いを込めれば────




「大丈夫。私はいつでもここにいるから」




「……!!」



俺が倒れてた時に見た夢で現れた幸。
あの時はただの夢だと思ってたけど俺の記憶から作り出した存在というより…今回の初代と同じように意思を持っていたように感じた。



「(その人の“思い”が“個性”を通じて俺らの体の中で生き続けている?ワン・フォー・オールで…俺の譲受の中で……幸や初代、菜奈さんは生きて────)」

「ハル?」

「!!」



急に名前を呼ばれて先程のオールマイトと同じようなリアクションを取ってしまった。

100%違うとは言いきれない仮説だったが、やっぱり夢物語だと信じきれない自分もいたから現時点では二人にも言わないことにした。





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