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 過去、そして(5/6)



すると二人の姿が黒いモヤと共に消えていきビルが現れる。
そしてそこには…“個性”を持つ者、持たない者、全ての者達が武器を持ち、目の前にいる自分たちとは違う、対立する人間に向かって牙を向けていた。



「(なんだ…これ…)」



かつて突如として“人間”という規格が崩れ去った。

そんな混沌の時代にあって、
逸早く人々をまとめ上げた人物がいた。



「力無き者に“選択”を。罪には容赦を。望むものを与えよう」



戦い続けていた人々が振りかざしていた拳をおろし、中央を歩くオール・フォー・ワンを見つめる。



「僕に協力してくれるなら」



また場面は変わる。
オール・フォー・ワンと初代の姿。
俺と緑谷はその様子を見つめることしか出来なかった。



「ああ…また食べなかったのか。かわいそうに。やせ細ってしまって」

「僕は…あんたの思い通りにならない…」



初代は衰弱しておりオール・フォー・ワンとの会話の際もずっと咳き込んでいた。



「そろそろ諦めたらどうだい?」

「……ゴホゴホ…」

「徒に力を振るう者たちが徒党を組んでいた。僕の手を拒み…秩序を否定する集団がいた。とても危険な存在だった」




────だから殺された。




「僕は何も命じていないんだぜ?僕を慕う多くの友人が秩序(ぼく)を思い行動に移した。嬉しかったよ…!思うだけで皆が動いてくれる…夢の光景だ。あの日おまえと読んだコミックの世界だ」

「あんたは3巻までしか読んでいない…続きがある。魔王に支配された世界を正義のヒーローがもがき苦しみ…そして最後に救い出すんだ。兄さん知ってるか?悪者は必ず最期に負けるんだ」

「架空(ゆめ)は現実になった!現実は定石通りにはいかない」



オール・フォー・ワンは初代の顔を右手で掴む。
それと同時に俺と緑谷も右手を伸ばしていた。



「おまえが屈しない現実もこれから僕は塗り替える。おまえが大切だ」

「やめろ」

「やせ細ったおまえにも使いやすい“異能”を見つけたんだ。共に征こう」



ぶつん。と急にテレビが切られるように今までの光景が黒いモヤと共に消えていった。



「君が9人目だね…」



初代の声が沈黙を破る。
消えてしまったはずの初代が黒いモヤに紛れながらも現れて緑谷へ近づいていく。



「もう少し見せたかったけどまだなんとか20%なんだね。気をつけて。特異点はとうに過ぎている」

「!?」

「でも大丈夫。君は一人じゃない」



すると今度は俺の方に顔を向ける。
ワン・フォー・オールの継承者でもない俺に干渉してくるなんて…これは本当に夢か…?



「そうか…君が繋いでくれたのか」

「(繋ぐ?なんのことだ?)」

「ありがとう。だけど君も気をつけて。あいつの気配を感じる」

「(あいつ?あいつって誰だ?)」

「もし飲み込まれそうになったら…忘れちゃだめだ。君自身を見失わないでくれ」

「!」



長い前髪で見えなかった初代の顔が一瞬見えた。



「でも……君たちならきっと大丈夫だね」



その時、彼は未来に希望を託すようにまっすぐした目で笑っていた。





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