◎ 彼は何故立ち続けたか(5/6)
同時刻、東京都某区警察本部庁舎。
高層階にある一室にスーツを着た女男一人ずつが座っており、手を後ろに組んで立っているヘルパットに対して真剣眼差しを向けていた。
「凶悪犯の仮釈放……その凶悪犯の“個性”と敵が作った“サポートアイテム”を用いての事件解決────……褒められたことじゃない。ヘルパット」
「(公安からの呼び出し…まあ想像ついてたけど…奴らにあまり警戒されたくないなァ)はい。しかし今回は“特例”ということで事前に許可を頂いてます。結果論になりますが奴の力なしでは花府事件解決には至ることは出来ませんでした。それとも───本事件を放っておいて違法薬物が更に出回っても良かった、と?」
「そんなことは言っていない。だが今回は特例中の特例。彼の口利きがなければ我々も承諾しなかった。それだけは肝に銘じておいてくれ」
「もちろんです」
いつもの様に笑みを浮かべてのらりくらりと交わしていく。
だがそんなヘルパットも今回に限っては少し緊張をしていたようだ。
「はあああ…」
公安での用事を済ませたヘルパットは解放されたと言わんばかりに近くのコンビニの駐車場でコーヒーを片手に大きなため息をついていた。
「疲れたー……(まあこれからもっと疲れるんだけど…)」
これから会う人物の顔を思い浮かべるとヘルパットは更にため息をついた。
デーマンドを初めとする自身の事務所メンバーの活躍を専用アプリで管理しており、その報告書に目を通していく。
「(うんうん。みんな立派に仕事頑張ってるね。そういえば事務所にもしばらく帰れてないな…)」
コーヒーをすすりながらぼーっと考えていると窓ガラスをコンコンと叩かれる。
それに気づき、叩いた人物を確認するとニッと笑みを浮かべ、助手席に座るよう促し車の鍵を開ける。
「待たせてすまない」
「いえいえ、俺もさっき終わって一息ついてたとこですよ。あ、良かったらコーヒーどうぞ」
乗車してきた男にコンビニで買ってきたコーヒーを手渡す。
男は礼を述べながら受け取るとコーヒーを飲んだ。
「事前に話は通しておいたんだが…用心深い人たちだ。君のことだから心配はしてないけど大丈夫だったかい?」
「もちろんですよ。で…今度はどうしたんですか?浦山さん?」
ヘルパットは視線を隣に座る男に移す。
浦山と呼ばれた男はゆっくりと口を開く。
「No.2ヒーローホークスの動向を探って欲しい」
「ホークス?なんでまた」
「うちの…“公安”と繋がってるようでな」
「……公安ってことは浦山さんのとこじゃないですか。浦山さんにも知らされていない極秘事項ってことですか?」
「恐らくな。俺らの“計画”のためにも障害は潰しておきたい。もしくは───利用できるものがあるなら利用する」
浦山はヘルパットに顔を向ける。
「君もよくわかってるはずだろう?」
「…………」
否定を許さない浦山の静かなる圧力。
それを察しながらもヘルパットはへらっと笑い口を開く。
「もちろんです。いつからの付き合いだと思ってるんですか」
「物分りが良くて助かるよ」
「……それが取り柄ですから」
「そういえば───俺が渡した“異能解放戦線”読んでくれたかい?」
「…………」
「“抑圧”ではなく“解放”を───まあ…この社会の中で数ある主張の一つだ」
「はい。今を予見していて感銘を受けました。限られた者だけではなく全ての者に解放を ───デストロの目指した社会は今の時代にあっている」
「流石だ。ヘルパット」
「…すごいのは俺じゃなくてデストロですよ」
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