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 彼らの日常(8/8)



「イレイザー。今日も行くのか」



マイクに呼び止められた相澤は振り返る。
そして問いに対して頷いた。
そんな様子を見たマイクは小さく笑った。



「心操は昔のお前と似てるもんな」

「…………」

「でも水科と戦わせるのはちょっと酷じゃねえか?あいつの実力はヒーロー科連中でも一筋縄じゃいかねえ。ましてや────」

「それでいいんだよ」



相澤の言葉にマイクは首を傾げる。
だが相澤は動じることなく書類をとんとんと机に当てて隅を整えながら続けた。



「水科と戦うからこそ見えるもんがある。それに…心操はそんな事ではもう折れないさ」

「随分かってるねえ」

「生半可な気持ちでヒーロー科に志望していないからな」

「そうじゃねえよ、相澤」

「?」



マイクはニッと笑った。



「水科のこともだよ。よっぽど信頼してんだな」

「…………」



マイクの言葉に相澤の手が止まる。



「入学当初は自己犠牲の塊で、どうしようもない問題児だったさ」

「ああ」




「これからは自分の身を犠牲にせずに救ける方法を模索しようと思う」

「辛くて、悔しくて、救えなかった自分は幸せになっちゃいけないと思ってた。でもね。気づいたんだ。きっとその人の人生が不幸だったかを決めるのはこれからの自分の人生…未来なんだって」

「二人の力あってだ。切島の“硬化”も砂糖の“シュガードープ”も進化してるから選択の幅が広がった。ありがとな!」




「だが今のあいつなら大丈夫だ。きっと心操のことも導いてくれる」

「へっ。確かに俺らオッサンより身近なやつの方が切磋琢磨しあえて良いかもな。青春ってやつね!」

「……まあそれでいい」







言葉は時に銃弾よりも鋭く心に深い傷をつける。



「どうせ無理だ」



俺はこの言葉の恐ろしさを知っている。



「この“個性”でどう敵と戦う?」

「一人だったら殺されて終わるぞ」

「どうせ無理だ。お前はヒーローになんてなれない」



俺が信じていたことや、教えてもらったことは全て否定された。
これは人間の“自信”と“可能性”を奪ってしまう“最悪”の言葉。
こんな言葉で未来を諦めさせられた人間は自信を失ってしまう。

俺もそうだった。

夢を見ないように、ずっと下を向いていた。
そうすれば楽だから。
そうすればいつか忘れられるから。



《見てください!上空から水────彼が来ました!!!》



そう思っていたのに────心のどこかでずっと残っていた。



「まだ自分にも出来るんじゃないか」

「自分も誰かを救えるんじゃないか」



人間は生きていくために“自信”が必要だ。
だけど俺はそれをとうの昔に置いてきてしまった。

だから進めなかった。
信じられなくて、怖かったんだ。



「溺れていた猫を救けようとして川に飛び込んだら自分が溺れてしまった、と」

「………はい。助けを呼ぼうにも近くに誰もいなかったので……」

「そうか。この子にとって君は唯一のヒーローだったんだね。よく頑張ったな。小さなヒーロー君」

「!」



そんな…何ができるのかわからない自分に光をさしてくれた。



「“抹消”………。すごく強い“個性”じゃないか!?敵を傷つけることなく無力化できる……この上なくヒーローにピッタリな“個性”だ」



あの人が言葉をくれたから、
誰もが「どうせ無理」と思っているヒーローへの夢へ進んでみようと思った。



「ダメだダメだ。けしからん!俺も混ぜろ!」

「ショータ!」



人の出会いには意味がある。

俺は……一人でも多くの人間の可能性を奪われなくなったら良いと、ただそう思う。





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