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 彼らの日常(7/8)



「あれ?爆豪も出かけたの?」

「はい。ハルさんと一緒に演習場に行きましたわ」

「へー」



上鳴は持ってきた課題を机の上に置き八百万に向かうように座った。



「本当に爆豪はハルのこと好きだよなァ」

「爆豪さんは上鳴さん達とも仲が良いじゃないですか」

「そうだけどハルは特別よ。特別」



そういって上鳴は首を横に振った。
だが八百万はその真意が掴めず頭に疑問符を浮かべていた。



「なんつーか…狂犬が唯一懐く、みたいな…」

「??」

「手っ取り早く言うとハルはあいつの目標なんだよ。だから気になるし、対等な関係で接してくれるのが嬉しいんさ」

「!そういうことですのね」



何か繋がったのか八百万はポンと手を叩く。
今度はそんな八百万に上鳴が疑問符を浮かべた。



「爆豪さんの柔らかい笑顔が増えた理由ですわ」

「なっるほどねー」

「芦戸さん」



遅くなってごめんね、と芦戸は笑いながら課題を机の上に置いて座る。



「また二人演習場行ってるの?」

「ああ。今日くらいゆっくりしたら良いのによ」

「上鳴も行ったら良かったじゃん」

「無理無理!レベル高すぎて着いてけない」



即答する上鳴に苦笑いしながらも芦戸と八百万もその発言に同意する。



「お二人はクラストップの実力者……私達も引き離されないよう精進しなければなりませんね」

「うんうん。私たちだってインターンでパワーアップしてること見せつけてやろう!」

「ンなこと言っても俺自信ないな〜……とかいって…」



上鳴はそう言いながら机に顔を突っ伏せた。
二人も困ったように笑いながら彼を励ました。







「……」



扉の向こうから響く轟音。
一体何が繰り広げられているのか…そう思いながら俺は恐る恐る扉を開く。

飛び込んできたのはハルと爆豪の戦い。
それは俺なんかには届かないハイレベルな戦いで、攻撃力、スピード、テクニック、戦術────どれをとっても桁違いで到底同い年のやつとは思えなかった。



「すげえ……」



そんな彼らの様子を見て俺は思わず言葉が零れる。
悔しいし、こんなやつらの隣に立って進んでいけるのかと少し不安も感じた。

だけど─────



「(なんつー楽しげに笑ってんだよ)」



絶対に追いつきたい。

その気持ちがその他を全て覆い尽くしてくれた。



「!爆豪ストップ」

「あ゛?」



俺に気づいたハルが爆豪を止めて、俺の近くに降り立つ。
そして笑いながら言った。



「時間あったから爆豪と特訓してたんだ。気づくの遅れてごめんな。心操」



そんなハルの隣に爆豪も降り立つ。
そして眉間に皺を寄せ、悔しそうな表情を浮かべた。



「もう少しでこいつをやれたのによ……」

「いやいや。あのまま続けてたらどうかなー」

「(爆豪に対して挑発するなんてやるな…)」



体育祭の時を初め爆豪の素行は普通科でも有名で、俺ですら爆豪を挑発すれば怒ることは容易に想像がついた。
だけど数秒後、予想もしなかった行動を彼はとった。



「……ちっ。今度は負けねえからな」

「!!」

「俺ももっと特訓しとくな」

「うるせえ!俺はその数十倍特訓してやるァ!!」

「はいはい。じゃあ心操来たからまたあとでな」



そうハルは笑う。
すると爆豪はふんっと言うとそのまま出口に向かい、背を向けたままそんなハルに答えるように片手をあげた。



「……よしっ。待たせてごめん。じゃあまずは準備運動しよう」

「ああ」



ハルは自分に着いた汚れをパッパッと払うと俺の横に並んで一緒に柔軟を始める。



「相澤先生は1時間後くらいに来るんだよな」

「うん」

「個性伸ばしはそれからだとすると…それまではやっぱ組手とかかなあ…」

「休憩なしで良いのか」

「うん。爆豪との戦いはハードだけど…現場に出れば連戦もざらだし、今の体力なら大丈夫」

「捕縛布の練習したいから試してみていいか?」

「もちろん」



俺の体もそこそこ温まって、提案の通り組手から始める。
“個性”を使わない純粋な身体を使った戦い。
ハルにとっては特殊な条件下かもしれないが、俺にとっては今後デフォルトになるこの中でどれだけ立ち回れるかが今後の生き死にも関わる。
その重要性を理解した上で、相澤先生とハルは組手に重きを置いて特訓メニューを組んでくれている。

もともとハルは“温冷水”や“圧力”などの“個性”を扱う戦闘スタイルだが────



「!!」



“個性”を使わない条件下でも俺なんかじゃ歯が立たないくらい強い。
その理由を前に聞いたら意外な返答が来た。



「俺の大元の個性は“譲受”だから、みんなが個性発現してる年齢には……まあ、所謂“無個性”と同じようなもんだったんだ」

「へえ……」

「でも…どうしてもヒーローになりたかったから、そんな条件下でも戦えるようにいろいろ試してたらこうなってた。戦闘にはいらないこんなアクロバットとかも見よう見まねで真似たりさ」

「!?すごいな…」

「いろんな状況があるから手数は大いに越したことはない。相澤先生の捕縛布も使いこなせればバリエーションが広がる…心操の“個性”と組み合わせたらそれこそ最強だな…」

「そうだな…」

「だからさ。一緒に頑張ろうな!」

「!」



前を向いてひた走り続けるその姿はかっこよくて、相澤先生と同じくらい尊敬してるんだぜ。



「心操!目ェ開けて前見ろ!」

「(目………!)」



理想(ユメ)を現実に。



「(右……いや─────)」



生まれや育ちを理由にして、
生まれ変わらずここまで生きた。



「!」



そんな自分が嫌で、

変わりたくてに俺はここに来たんだろ。





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