◎ 彼らの日常(6/8)
「!」
ポケットに入れていたスマホのバイブに気づいて取り出す。
メッセージの相手は普段ほとんどやりとりをしない麗日からだった。
「………は?」
「どうした?」
そこに書かれた内容に思わず声が漏れる。
それに気づいたハルが振り返りながら尋ねてくるが、少し考えたあとなんでもないと素っ気なく返す。
いつものことかとまったく気にする様子もなくハルはそっかと笑うと前を向いた。
「(急にンなこと言われてもどうしろってんだ…!あの丸顔……!!)」
「明日から始業式か。早いなー」
「……別に今までとそんなに変わんねえだろ」
「まあそれもそうだけど───ほら。もう2年生だぞ」
信じられないとハルは笑う。
その言葉を聞いて爆豪は入学してから今日までの日々を思い出していた。
「…………」
目の前で笑っていた彼の背を見て思わず目を細める。
様々な経験を経て強くなったハル。
対して自分はどうだろうか。
確かに使う度に“個性”は強化されていって、戦闘経験を積んで多くの敵と渡り合えるようになった。
だけどそんな自分より更に速く、どんどん先にいってしまう彼を見るといつも頭をよぎる。
自分は本当に変われているのか、と。
「(右、いや…速ェ!!)」
「(爆豪のAPショット。前より威力更に上がってる…。エンデヴァーのところで学んだ溜めて放つ特訓が活かされてるな)」
30分ほど手合わせをして休憩に入る。
インターンで鍛えられているとはいえ、クラストップの実力者である二人が“個性”をフルにいかした手合わせはハードなもので、流れる汗を拭い呼吸を整えていた。
「(”圧力“の使用も慣れていた。後はこれをどうモノにするか……爆豪みたく溜めて放つを鍛えたら”温冷水“とは違った攻撃手段になるかも────)」
「…………」
「!どうした爆豪?」
視線に気づいたハルはいつものように笑う。
気づかれてしまった気まずさを感じ爆豪は思わず眉間に皺を寄せる。
そんな爆豪の眉間を指さした。
「いつもここに皺寄ってんな。跡つくぞ〜」
「うっせえ!そういうテメーはいっつもヘラヘラ笑ってんな。顔中皺だらけになんぞ」
「…ぷっあはは!!確かに!」
爆豪の発言がツボに入ったのかハルは大口開けて笑った。
「将来俺の顔がしわくちゃになったらたくさん笑ってこれたってことか。なんかそれはそれで良いな!悪くない」
「頭ハッピーポジティブ野郎め」
「いや、言葉のチョイスよ」
そしてハルは笑った。
「あ、そうだ。爆豪が溜めて放つ時ってなに意識してる?気をつけてることとか」
「あ?ンなの────」
演習場で各々の疑問点や気になる点を話し合っている最中、ハルが少し顔をしかめ、いったん中断する。
ごめん、と一言言うと持ってきた荷物の中から薬を取り出し水で流し込んだ。
「体調悪いんか」
「まだ平気。なりそうだから早めに飲んどいただけ。ちょっとだけ寝転がらせて」
そういうとハルは目を腕で覆うような体制で仰向けで寝転がる。
そんなハルを一瞥して爆豪は黙ったまま自分も休憩と言わんばかりに目を閉じた。
「寝過ぎなんだよ」
「休みの日くらいいいだろー。そういう爆豪は何時起きだよ」
「8時」
「健全な生活送りやがって…」
「怠惰なテメーとは違うからな。昨日何時に寝た」
「………1時」
「休みだからってどーせゲームしてたんだろ」
「…………」
すべてお見通しの爆豪に思わず黙り込む。
そんな様子を見て勝ったと得意げな笑みを浮かべた。
だがすぐにその笑みは消える。
「ヒーローとして生きていく以前に体が資本だぞ」
「だな」
「ま、テメーはしぶとく長生きしそうだがな」
「それ爆豪が言う?爆豪なんて殺しても死ななさそう。てか生き返りそう」
「当たりめーだ。つーか殺されねえわ」
「(当たり前なのか)」
ハルは腕を退けて天井を見上げた。
「復活してきた!」
よしっと起きあがろうとした時、顔にタオルを投げられる。
突然のことに変な声を出しながらハルはまた地面に倒れ込んだ。
その様子が面白かったのか爆豪は吹き出しそうになったが口に手を当てて押さえ込んだ。
「テメーは寝とけ。寝坊助」
「……」
そんな爆豪に気づいたのかハルは投げられたタオルから覗き見る。
その隙間から見えた笑いに堪える姿に小さく笑った。
そして仕返しと言わんばかりにタオルを爆豪に投げつけた。
すると同じように変な声を出すものだから思わずハルも吹き出してしまう。
「あはははは!!仕返し成功!」
「てんめぇ……!」
右手でぱちぱちと”爆破”を発動させながら#…#を睨む。
一方で右手に”温冷水”を発動させながら爆豪を挑発するような笑みを浮かべた。
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