◎ 彼らの日常(5/8)
時は流れ、始業式前日の午前9時。
「んー……(アラームうるさい……)」
顔を枕に埋めながら手探りでアラームの鳴るスマホに手を重ねる。
そしてノールックでスマホのアラームを止めてそのまま二度寝に入ろうとした時、メッセージが来たことを告げる通知音が鳴る。
ピロンピロンと何度も鳴っていることからチャットのグループが動いていることを察し、ハルは半目でスマホを手に取る。
「(…やっぱり)」
グループ名は【1-A組】
そこにある特定の人物に対するメッセージが次々と投稿された。
《ハル生きてるかー?》
《おはよー》
《Good Morning☆》
レッドライオットのアイコン、セロハンテープのアイコン、ヒーローコスチュームを着てビシッと決めた自画像のアイコンと各人の個性が光る。
ハルはうつらうつらとしながらスマホのキーボードを打つ。
「(えっと…………おは…よ………)Zzz……」
だが眠気に耐えられなかったのかスマホを持ったままハルは再び枕に顔を埋めてしまう。
◇
ピロン
「お。ハルから返事きたぞ………ってなんだこれ」
「《おはも》って、あいつ打ち間違えてやんの!」
「こっから反応無いってことは二度寝パターンの日ね。ってことは昼までは降りてこねーな」
水科義晴の朝は────
時々とても遅い。
◇
12時頃。
頭に寝癖をつけたまま、ゆるいパーカーと体操服のズボンを身にまとったハルが1階に降りてくる。
そんなハルに気づいた緑谷が声をかけた。
「ハルおはよう」
「…オハヨーゴザイマス……」
「久々の休暇だね。よく眠れた?」
「おかげさまで……ふわああ」
「その割には随分眠そうだな」
「轟くん、これはあれだよ。寝すぎて逆に眠いってやつだ」
「そういうもんなのか?」
「そういうもんだ…」
顔洗ってくるーと言い残しふらふらとした足取りで洗面所に向かう。
ハルが洗面所につくと常闇が顔を洗っていた。
「常闇、黒影おはよ」
「ハルか。おはよう」
「オハヨウ」
「さっき起きた感じ?」
「ああ。どうにも朝は弱くてな…そういうハルもだろう」
「おっしゃる通りで……二度寝したらこんな時間になってたわ…」
「フミカゲも二度寝してたゾ!」
「常闇は俺と同じ朝弱い仲間だもんなあ…」
常闇の隣に並んでハルも顔を洗い、寝癖を直していく。
「ハル。後ろの寝癖残ってるゾ」
「ほんとだ。黒影ありがとうな」
「オウヨ!」
最後に歯磨きを終えると目が覚めて、やっと通常のモードへスイッチが入った。
常闇と一緒に談話室へ戻るとそろそろお昼ということもあり、ほとんどのA組メンバーが降りてきており、各々で談笑していた。
尾白は俺たちふたりに笑いながら言った。
「ハルと常闇は本当に朝弱いな」
「寝る子は育つっていうからな!」
「ソウダソウダ!」
「でもハル、最近本当に成長してない?身長、瀬呂と一緒くらいだったのにそれより大きく見えるんだけど…」
「「え!?」」
尾白の言葉を聞いて、テンションの上がる俺とゲッとなる瀬呂。
同じ言葉なのに異なるニュアンスに周りも笑う。
「なんなら俺の方がちょっとデカイくらいなんだけど…」
「瀬呂!背比べしよ!!」
「ええー…いやー………ええい!この際だ!かかってこい!!」
少しの期待を胸に俺は瀬呂と背中を合わせる。
すると驚きの事実が尾白の口から出た。
「ハルの方が大きい……」
「「!!」」
思わずやったー!と飛び上がる俺と床に崩れ落ちて落ち込む瀬呂。
その様子を見ていた砂藤は言った。
「もしかしたら180cmあるんじゃないか?」
「成長期きた!!」
「みんな!昼ごはんの時間だ!」
飯田に呼ばれて軽い足取りで準備に向かった。
いつものランチディッシュが用意してくれた昼食を受け取ってそれを食べる。
明日からいよいよ始業式。
1年生最後の学期が始まる。
それはみんなも同じことを思っていたようで話題は自然と明日のことに。
隣に座ってご飯を食べている障子が俺に声をかける。
「そういえば今日は用事があるとか言っていなかったか?」
「うん。昼からちょっとな」
「え?なにデート?」
「なんでだよ」
上鳴の的外れのボケを軽くあしらう。
それを聞いて瀬呂はケラケラと笑っていた。
「午後から一緒にゲームしようと思ってたのによ〜。こんな日くらいゆっくりしろよ〜」
「それは魅力的な誘い。夜は?」
「息抜きも大事だが二人とも課題は終わっているのか?」
障子の質問に上鳴は渋い顔を浮かべる。
これはまだ終わってないな…。
仲間だよな?と言わんばかりの顔で見つめてくる上鳴に若干の罪悪感を感じながらも苦笑いをうかべた。
「俺はもう終わった。今回は───」
「僕らと一緒に!」
「インターン前に終わらせたからな!」
緑谷と飯田(オカンコンビ)が意気揚々と言い放つ。
本当に一人だったらやらずに放ったらかしも全然ありえたから助かったなあ。
助かったと言えば……。
「あと轟にも教えてもらった。な!」
「ああ」
「手厚いな!!こうなったら────…ヤオモモ!助けてくれ!!」
「え!?」
「上鳴ずるい!ヤオモモ!私も助けて!」
「芦戸まで!?」
「おふたりとも…!もちろんですわ!ご飯を食べたらすぐにやりましょう!」
普段と変わらない日常。
それを享受できることが如何に恵まれていることか、インターンで非日常に触れてきたからこそ強く感じた。
ご飯を食べ終わると俺は体操服へ着替えるために一回部屋に戻った。
忘れ物がないか持ち物の整理をしていた時に突然の来訪を知らせるノック音。
誰かと思って扉を開けてみるとよく知る顔。
「爆豪?どうした?」
先程とは違い俺と同じく体操服に着替えた爆豪に尋ねた。
「時間まだあンだろ」
「?時間まで自主練しようかと思ってたからあると言えばあるけど────」
「なら付き合えや」
そういって早く準備しろと言わんばかりに腕を組んで爆豪は部屋の前に立つ。
手に持っているコスチュームの篭手を見て察する。
ちょっとまってて、と一言残して部屋に戻ると待たせないようになるべく早めに準備を終える。
「お待たせ」
「フンっ」
エレベーターで1階に降りると談話室では女子たちが話していて俺らを見つけた麗日は声をかけてくれた。
「お二人さん自主練?」
「うん」
「さっき緑谷も出てったよ」
「轟さんも演習場の使用申請出してましたわ」
「熱心だね〜」
耳郎やヤオモモの言葉を聞いて、俺も葉隠と同じことを思ってしまって笑った。
そんな俺らも同じなわけなんだけども。
「無理だけは禁物よ。ハルちゃん、爆豪ちゃん」
「梅雨ちゃんありがとう。じゃ行くか」
「……」
俺の言葉に爆豪は小さく頷く。
prev|
next