アトラクトライト | ナノ

 彼らの日常(3/8)



泥花市街戦再臨祭より一週間経過したある日。
それまでの貧乏生活とは打って変わって、豪華な部屋に豪華な寿司を頬張る敵連合メンバー。
戦いでおった怪我が痛々しく残るものの、新たな平穏な日常を彼らも享受していた。



「いやー雨降って地固まるとはこの事だね」

「何もしてなかっただろ」

「ハッハ。抜かせ。ちゃんと逃げ回ってた。なあ野狐!」

「コンプレス、俺はお前らの怪我の手当に勤しんでたんだよ。トガなんて俺が止血しなきゃ死んでた」

「それに関しては感謝してます。が……」

「うっう……トガちゃんごめんなァ……」

「あれとめてもらえませんか?」



傷だらけで気を失うトガの遺影に向かって涙を流しながらりんを鳴らし続けるトゥワイス。
そんなトゥワイスを不服そうな表情を浮かべながらトガは見つめる。



「トガちゃんが血を分けてくれなかったら…今頃トガちゃんは…」

「それやめて下さい。私が生きてるので嫌です」

「人の嫌がる事はやめましょう。ああ〜〜!足が勝手に!何してんだ足!!ボク悪い子…ぶたないで。ええ!?何言ってんだ俺!?」

「トゥワイス克服したんじゃねえのか。増えてねェか?」

「無理やりな療法は却って悪化するらしい」



解放軍との戦いが終わり、こうやって仲間同士で話す姿は一般人となんら変わらない。
そんなありふれた日常を生きる彼らを見ながら野狐は目を細めた。



「野狐くん」

「どうしたトガ?」

「お寿司食べないんですか?美味しいですよ」

「俺はいいや。トガ食べなよ」

「じゃあ俺が貰ってやるよ!」

「スピナー…お前さっき荼毘のも食べてたろ。ちっとは遠慮しろ」



寿司を摘むスピナーに野狐は苦言を呈する。
そして野狐は魚が嫌いだからと寿司を食べていない荼毘に声をかけた。



「他になんか用意してもらうか」

「いや、俺はいい」

「ふーん……」



ならいいか、と野狐はソファに体を預ける。
野狐自身は先程の話にもあったように泥花市の戦いにはあまり介入しておらず、“凝血塊”による止血などのサポートを主としていた。

ソファから立ち上がる野狐にスピナーは尋ねる。



「……ん?野狐どこか行くのか?」

「ああ。死柄木のとこにな。あいつも寿司食いたいんじゃねえかな」



そういいながら野狐は適当に寿司を皿に取ると部屋から出ていく。
その背中を見送ったトガが口を開く。



「野狐くん変わりましたね」

「そうかァ?イメチェン!なんもわからん!その通りだ!」

「トゥワイス…」



コンプレスはトゥワイスを見ながらやれやれと首を横に振った。
そんな彼らは放ってスピナーは何が変わったのかトガに尋ねた。



「会った時はもっとトゲトゲしい印象でしたが、なんだか柔らかくなりました。私たちを気遣ってくれて優しいです」

「野狐は元からいいやつじゃねーの。いや極悪人だね!さいていだ!」

「…………」







死柄木は泥花市のリデストロとの戦いで大きな功績を残し、一方で生きているのが不思議なレベルの大怪我を負っていた。
超常解放戦線のトップとして皆の前に立った以降は療養という名目で個室へ閉じこもっていた。

その部屋のドアを野狐がノックする。



「デリバリーでーす」

「頼んでないぞ、野狐」

「お腹すいてるかと思って。いかが?」

「…………」



そう野狐が寿司の乗った皿を差し出すと死柄木はその1つを掴み口に運ぶ。



「…うまいな」

「みんなも大満足だぞ。リーダー」

「そうか。おまえはあのヒーローのことどう思う?」

「あーヘルパットだっけ?更生活動とか銘打ってえぐいことしてんなァ。まあ…所詮ヒーローなんて私利私欲にまみれた奴が大半。オールマイトみたいなのがイカれてるだけなんだよ」



野狐はそういいながら頭の近くで指をくるくると円を書きながら言う。
そんな野狐をじっと見つめながら死柄木はゆっくりと口を開いた。



「…………おまえ、今どっちだ」

「…………」



少しの沈黙の後、野狐が小さく笑う。



「今は“汐”だ。でもいつ“ヒロ”が出てくるかわかんねェ。日に日に境界が曖昧になっていって…俺が何者かわからなくなる」

「……おまえはどうしたい」

「どうしたいか、ね……。」




「俺を“見て”」

「俺は“ここにいる”」




「俺は俺の存在を証明したい」



────“俺”は一体どこにいるんだ?



「…………」



喉まで出かかった言葉を飲み込む。



「ドクターが言っていた」

「?」

「世代を経るごとに混ざり、より複雑に、より曖昧に、より強く膨張していく“個性”。容量(メモリ)の膨らむ速度に身体(ハードウェア)の進化が間に合わずいずれコントロールを失う。その概念を“個性特異点”と呼んだそうだ」



死柄木はベッドから起き上がるとゆっくりと野狐へ歩みを進める。



「身体(ハードウェア)の進化(アップデート)のために様々な研究を行い、試行を重ね、やっと見えてきたんだと」

「…何の話だ」

「汐。お前の身体はドクターの元にある。その身体(ハードウェア)は研究を重ね更なる進化(アップデート)を果たしたとさ」



狐面で隠したはずの表情をまるで読み取ったかのように、必要な情報を語る死柄木に野狐は目を細める。

幼稚さが残り、リーダーとしてはまだ足りぬことが多かったが、マキア、解放軍との戦いを経て着実にリーダーとしての頭角を現し始めていた。



「俺はおまえを信頼してるんだ、野狐。花府事件、だったか?真実が露呈し、恩田正弘が“犯罪者”から“被害者”になった時、逃げ出してヒーローに救いをこうと思っていた。だがお前はそうせず連合に残った」

「………俺を試してたのか」

「人聞きが悪いなァ。見てたんだよ。俺は」

「ふーん……」



ずっと喉に何かが詰まっているような感覚で息苦しかった。
だけどいつもあいつは笑って救けてくれるんだ。
今回だってきっと……。

だから今は昔のように息ができる。
顔を上げて進むこともできる。



「俺も死柄木を見てきた。すさまじい成長を遂げてて俺も驚いている」

「…………」

「ただ────今の俺じゃお前の隣に立つ実力はない。だけどお前が望む世界の行く末を見届けるために、俺もその進化(アップデート)とやらをさせてくれ」



そういいながら野狐は狐面を取る。
そして自分の胸を掴む。



「“これ”は借り物だ。俺じゃない」



そして笑みを浮かべながら首を横に振った。



「…………仕方ねェ…ドクターに掛け合ってみる」

「ありがとう。死柄木(リーダー)」





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