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 彼らの日常(2/8)



「……ふう」



敵連合との会合の後、ヘルパットは小さく息をつく。



「ヘルパット」

「!浦山さん。来てたんですね」

「話し合いの結果が気になってね」

「わざわざ来なくてもすぐに連絡しますって」



そう笑いながらヘルパットは手に持つスマホを揺らす。
だが浦山は首を横に降るとスマホを指さし、そのまま下に下ろす。



「誰が聞いてるか分からない。電源を切ってしまえ」

「……はいはい。浦山さんは用心深いですね〜」

「大事なことだからね」



浦山はそういってにっこり笑う。
それに対してヘルパットも笑みを浮かべながらですね、と肯定すると目の前で電源を切ってポケットに閉まった。



「敵連合には警察の介入と俺の事務所のこと伝えました。警察の介入に関しては既に団員に関係者が多くいるのもあったので“ひき”はそこそこでしたが、俺の事務所……敵の隠れ蓑になる点は食い付きが良かったですね」




「敵をヒーローにするだと……?」

「……反対だ!俺らは社会に…ヒーローに淘汰されてきた!なんで今更────」

「落ち着けスピナー」

「弔くん?」

「とりあえず話を聞こう。判断はそれからだ」

「……ありがとう、死柄木。俺の事務所は敵更生を行っているが…それは表の顔。もともとは社会へ不満や憎悪を募らせてた連中だ。簡単に更生なんてするわけがない」

「…何が言いたい」

「信じていたヒーローが自身を脅かす敵になったらどうだ?ヒーロー社会そのものへの不信感へ繋がる。物理的な被害プラス精神的被害の拡大…………これが俺の…社会に対する“復讐”の一手だ」

「復讐、な…。随分とめんどくさいことをするな」

「物理的攻撃は一時的に大きな被害にはなるが、時間が経って復興すればそんな出来事がなかったよう元通りになるもんだ。そうなれば結局何も変わらない。そして人間は同じ過ちを繰り返す…。だからもっと深く、修復不可能な傷をつけていく。今まで信じてきたものが何も信じられなくなるような不信感を与えることが今の社会を“壊す”ことに有用だと考えたが、どうだ?」

「…………ははは!先生が好きそうな手段だ」

「…………」

「良いだろうヘルパット。利用されてやるよ」




ヘルパットの話を聞いて浦山は笑いながら近づくと肩をポンッと叩く。



「流石だ。君に任せてよかったよ」

「ありがたいお言葉です」

「これからも上手くやってくれ。きたるべき日に備えて、ね」

「はい」



そのまま浦山は歩いて言ってしまう。
その間、ヘルパットは浮かべていた表情を崩すことなく小さな笑みを浮かべながら立ち尽くしていた。
そして浦山が立ち去ったことを確認してから自身も歩みを進めた。

そのスピードはどんどんと速くなっていく。
その間、表情は変えず、あくまで冷静な彼を装ったままで。



「…………」



その時、彼のズボンに入れていたスマホのバイブ音が鳴る。



「!」



ディスプレイを確認すると映し出された文字は「デーマンド」の五文字。
それを見るとヘルパットはハッとした顔を一瞬浮かべたが、また先程の笑みに戻り電話に出ることなく震えるスマホをそのままズボンのポケットに押し込んだ。



「(ここからだ。一手も間違えられない。慎重に…)」



誰も信じるな。



「(油断するな)」



誰も…………



《ヘルパット?》

「!ああ、ごめん。ちょっとぼーっとしてた」

《……そうですか》



あれから車に戻ってハルに折り返し電話をしていた。
時間は丁度昼時で、ハルもインターンの昼休み中とのことで少しの間だけ通話することに。

インターン先での出来事を始めたわいの無い話が繰り広げられる。
いつも通り、そう思いながらヘルパットは話していたはずだった。
だけど電話越しの彼は心配そうにこう言った。



《…ヘルパット、無茶してませんか?》

「なんで?別にいつも通りだよ」

《いや、なんか…ちょっと元気なかったので》

「!」



デーマンドといいハルといい、自分の些細な変化に気づいて見透かしてくる人がいる。
ずっと自分の本音を見透かされまいと生きてきて、プロの心理学者すら欺く技術を磨いてきたヘルパットにとってはそんな彼らの存在が不思議でたまらなかった。

どこで悟った?
何が油断に繋がった?

自身の一挙一動が今後の未来を左右することを知っていたからこそ、早めに芽はつまねばとそう思い、ハルに探りを入れることにした。



「デーマンドにも言われたんだけどなんでそう思うのさ。一応いろんな交渉とかしてるから、疲れてるように見えてると心象悪いんだよね〜」

《なんでって……そう言われると難しいですね…》

「難しい?」

《はい。なんというか…そう感じた?勘?みたいな…話してる時の温度感が違うというか……そんなぼんやりしたもので………》

「………ぷっ…あははは!!」

《!?ヘルパット?》



自分の考えが杞憂だったと知るや否や面白くなってきてヘルパットは堪えられなくなって笑っていた。
だが急に笑い始めたヘルパットにハルは訳が分からず戸惑いを隠せずにいた。



「いやーごめんごめん。思ったより右脳的でなんの根拠もなかったから…二人とも脳筋すぎだって」

《脳筋って……》

「うんうん。やっぱり二人は似てる。俺の目に狂いはなかったってことだ」

《そうだ。似てると言えばヘルパットとホークスも似てますよね》

「え」



急に出てきたホークスの言葉にヘルパットは本音が漏れる。
いかんいかんと我に返ったときに気づく。



「ホークスから連絡来てたけど…もしかしてハル、彼になんか言った?」

《たまたまホークスとご飯食べる機会があって、その時に……》

「なるほどねー(だからかー納得納得)」

《なんて来てたんですか?》

「それは秘密。仕事関係だから社外秘」

《なら仕方ないですね》



もうそろそろ昼休憩も終わるか、そう思って電話を切り上げようとした時だった。
ハルはヘルパットの名前を呼ぶ。



「どうしたの?」

《…ひとりでなんでもしようとしないでくださいね》

「君は本当に心配症だね」

《そう言われても何度だって伝えますよ。……貴方の周りにはたくさん味方がいる。その中のひとりでいいから頼ってみてください。その人はきっと力になってくれますから》

「…………そうだね。ありがとう、ハル」

《いいえ。じゃあ俺行きますね。また連絡します》

「うん────」





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