アトラクトライト | ナノ

 許されざる者(10/10)



「───い。おい。起きろ」

「………んん」



うっすら開いた視界から見える爆豪の顔。
眠い目をこすりながら尋ねる。



「今何時…?」

「7時。体調どうなんだよ」

「体調は…ふわあ〜〜いつも通り通常運転」



そう言って笑いながら寝返りを打って布団を被り直す。
チッと舌打ちが聞こえてきたかと思うと布団をひっぺがえされる。



「うおっ」

「二度寝すんな。はよ準備しろ」

「はーい」

「(相変わらずすげー寝癖)」



布団から出てしまえばこっちのもんだ。
顔を洗って、歯を磨いて、相変わらず爆発してる寝癖を直して、服を着替えて……。



「?どうした爆豪」

「……本当になんともねえのかよ」

「さっきも言った通り」



そう言って笑いながら筋肉ポーズをする。
すると爆豪はありえねえといった顔で俺を見てくるもんだからますます訳がわからなくて俺は首を傾げる。
そんな俺に根負けしたのか、爆豪は机の上に置いてあったビニール袋を指さす。



「……なにこの缶の量」

「全部てめーが飲んだやつだ」

「!!しかもこれ酒じゃ─────」



思い返してみるとジュースを飲んだ辺りからあんまり記憶がない。
ふわふわ楽しかったことはなんとなく覚えてるんだけど…。
いやいや、重要なのはそこじゃない!!



「未成年飲酒とか…俺停学になる…?」

「……知らねェ」

「ちゃんと表示見とくべきだった…」



その後、俺は素直にエンデヴァーへこのことを打ち明けた。
するとエンデヴァーは苦々しい顔を浮かべながらも「自分の注意喚起が遅かった」と謝りつつ、今回の件に関しては不問としてくれることに。

ホテルを出て駅に向かう道中、何やら街が騒がしい。
それを感じ取るや否や俺たち5人はすぐさま現場へ急行した。



「(!反応が早い。それにスピードも…俺に着いてきている)」

「上空に上がって状況把握してきます!」



俺はそう言って圧力で更に上飛び上がった。
どうやら敵集団が宝石店に泥棒に入ったらしく周りの“個性”で周りの交通網をめちゃくちゃにしながら逃走を図っているようだ。
それをエンデヴァー達に伝える。



「ハル!デク!お前たちは周りの避難誘導!ショートとバクゴーは俺と共に敵確保だ!」

「はい!」

「ああ」

「言われなくてもやってやるっての!!」

「!!」



その時見覚えのあるコスチュームをまとった一人のヒーローが宝石店から出てきた敵3人の前に立ちはだかる。
敵はそれに気づくや否やその人目掛けて襲いかかるが乗ってきたスケボーで受け止めたり、いなしたりしていく。



「あいつ…“個性”使わずに…!?」

「!来た来た」

「ヘルパット!貴様────」

「エンデヴァー“ヘルプ”するので裏口から出ようとしてる敵を頼みます」



ヘルパットの個性“ヘルプ”によって能力が底上げされたエンデヴァーが指示通り裏口へと向かう。
その間襲いかかってくる敵をヘルパットは“個性”や特別なサポートアイテムを使うことなく、その身一つで対応していく。

その身体のこなしに爆豪と轟は圧倒されていた。



「(たった数分でもう制圧した…!?)」

「バクゴー!ショート!君らは中にいる人たちの救護を」

「ちっ……」

「はい!」



爆豪たちに指示を出し、敵を拘束すると早速スケボーに乗ってエンデヴァーがいる裏口へと急行していった。
俺と緑谷も周りの避難誘導を終えて現場へ合流する。



「中にいる人たちは無事か?」

「ああ。怪我もない」

「よかった…。そういえばエンデヴァーは────」

「裏口から逃げた敵を制圧、確保完了だって」

「「「!!」」」

「あ。ヘルパット」



ちょうどみんなの死角から現れたため三人はビクッと肩を揺らす。
そんな様子に笑うヘルパットに俺は苦笑いを浮かべた。
俺はヘルパットが持っていたスケボーを指さしながら口を開く。



「それって───」

「ああ!俺は移動に時間がかかるから、小回りも聞いて走行中に両手も使える…そんな感じのがないかと思って探してたら某アニメからインスパイアを受けて作られた電動スケボーに出会ったわけ。足元のスイッチを押せばビュンッとひとっ飛びだ」

「使わない時は背負って持ち運べるようになってるのか!」



緑谷はヘルパットが背負っている電動スケボーをまじまじと見つめる。



「“個性”も使わずに一瞬で制圧していて…すごかったです」

「たまたまだよ。運良く虚を突く事が出来たし敵の“個性”も大したものじゃなかったし」

「…………」

「!」



ヘルパットの話を不服そうな顔をしながら聞いていた爆豪が俺を肘でつつく。
それに答えるかのように俺は首を横に振った。
するとやっぱりかと言わんばかりに爆豪は目を細めた。



「ヘルパットの実力は相当だ。それこそ……俺ら四人が一気に飛びかかっても勝てるかどうかってくらい」

「「「!」」」

「ハル、買いかぶりすぎだよ」

「…俺はまだ連勝組手でヘルパットに勝ててないですから」

「(連勝組手ってなんだろ?でもあのハルが勝ててないって……)」

「前は、ね。今はわからんよ」



そう言ってヘルパットは笑う。
だけどその表情は職業体験の時とは異なるように見えて俺は少しだけ目を細めた。
だけどこの人の事だ。
この大勢がいる場でそれを追求することは望まない。
そう思って俺は口を噤むことにした。



「!失礼。………ごめんね。次の現場に行かなくちゃ」



そういうと早速スケボーに乗ってこの場から離れようとする。
そんなヘルパットの名前を呼んだ。
するとこの人はいつもと変わらない笑顔を俺に向けて答えた。



「────っ」

「どうしたの?ハル」

「ちゃんとご飯食べて睡眠もとってくださいね!デーマンドたちにも連絡返してくださいね!あと───俺たちは味方ですからね!!」

「!」



この言葉を伝えなくちゃ。
なぜかこの時強くそう思ったんだ。



「……知ってるよ」

「え?」



それがヘルパットから発せられた言葉なのか、それとも俺の空耳だったのか確かめる間もなくヘルパットは行ってしまった。

その背中がやけに遠く見えたのは、
これは、俺の気のせいなのだろうか。





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