◎ 許されざる者(8/10)
ベッドに入って電気を消して寝る体制に入るが、ハルはまだ話し足りないのか爆豪に向かって声をかけ続けた。
「もう寝た?」
「うるせえ。もう寝る」
「起きてんじゃん!なに話すかな〜」
「〜〜〜っ!!」
ハルと同室になったことを後悔した瞬間だった。
思いがけない言葉が発せられた。
「バクゴーはさ、いっつも思うけどほんと優しいよなー」
「…はあ?」
「さっきも寝落ちする前にお風呂譲ってくれたし、水くれたし」
「(それはほっとくとめんどうだからだっつーの…)」
「あとさ。俺の家族のことも気にかけてくれた」
「!」
思いがけない言葉に爆豪はハルの方へバッと視線を向ける。
だがハルは仰向けで天井を見上げたまま続けた。
「爆豪は口は悪いけど…繊細で、人の痛みとか悩みとかそういうのに気づけるやつだ。でもそれってさ、自分もそういうの抱えてるから分かるのかなーって。……あ、そうそう。俺、爆豪に思ってたことあったんだ」
「なんだよ」
「…そんな怖がんなくて良いのにーって」
「……は?」
思いがけない言葉に眉を顰める。
そんな爆豪のことは露知らずハルは続けた。
「弱くったって良いんだよ。俺だって散々情けない姿見せててさ、だけどみんなが隣にいて寄り添ってくれて、おかげで立ち上がれてまた歩き出せた」
ハルは爆豪の方へ寝返りを打つ。
「弱い自分を許せるようになったのは爆豪たちのおかげだ。ありがとう」
そしてニッと笑った。
暗くてもしかしたらよく見えなかったかもしれない。
でも爆豪は自身の布団に顔を埋めた。
「知るかよバカ」
「またバカって言った!」
本当に口悪いなーと言いながらハルは笑った。
普段の爆豪ならここで暴言が飛んでくるのだが…今日はそれはなかった。
「なあ」
「…んー?」
「まだ俺はおまえのようになれねえ。全部拭って、前に進めてねえ。俺ァ……まだ弱い」
「…………」
そんな爆豪の言葉を聞いてハルはぷはっと笑った。
突然笑われたことに少しだけイラッとしながらも爆豪はハルを見た。
「俺のようになるのがゴールじゃないだろ。俺は俺のやり方で進んだだけで“正解”じゃない。人の数だけ進む道はあって、それが正解か不正解かは進んだ先に見えてくるもんだ。…………爆豪。俺だってまだまだ弱いよ。何度も飲み込まれそうになる」
夜眠る前、亡くなった母や親友、今もどこかで苦しんでいる親友の姿が浮かんできて、消えない後悔が心を支配していく。
そんな夜を何度も何度も繰り返した。
「逃げたくなる時もあるけど、その時は俺、爆豪を思い出すんだ」
「……なんでだ」
「爆豪って自信過剰で口悪くて聞いててひやひやすっの」
「………悪かったなあ…?」
「でもそれは自分を鼓舞するための言葉で、ストイックに追い込んで追い込んで、自分から逃げ道なくして前に進むだけにしてる。それって本当にすごいことだなって」
「!」
爆豪、と彼は名前を呼んだ。
「おまえかっこいいよ。自信持てよ」
そして笑った。
「……ハッ!何言うかと思えば…あたりめーだ!……俺はオールマイトをも超えるNo.1ヒーローになる。全部に勝って、全部救ける。それが俺だ!!」
「……………」
「おい。聞いてんのか────」
「Zzz………」
「(こいつ…!!!)」
イライラした爆豪は思わずベッドから出てハル片頬をつねる。
だが夢の中にどっぷり漬かっているのか痛そうに眉はひそめたものの眠りから覚めることは無かった。
「勝手な奴………」
そう呟きながら手を外す。
そして小さく笑うとベッドに戻り同じように眠りの世界へ飛び込んだ。
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