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 地獄の轟くん家(5/7)



台拭きを片手に部屋に戻ろうとした時にばったりと夏雄さんと鉢合わせする。
上着を着てリュックを背負っている姿を見るに帰るところのようだ。



「あ……先に出るよ。みんなはゆっくりしてって」

「夏雄さんはひとり暮らしでしたっけ?」

「ああ、ここからそんなに遠くはないんだけどさ」

「なら良かったです。もう暗いので気をつけてくださいね」



俺はそう言って笑うと夏雄さんは何故か少し驚いたような表情を浮かべる。
するとさっき席を立った時と同じような苦々しい表情を浮かべた。

何か罪悪感を感じているような、悔いているような、そんな複雑な表情を見て少し心配になった。



「(このままひとり帰して良いんだろうか…)」



ヒーローとしてのエンデヴァーを見てその背を追う焦凍、変わろうとする姿を見て受け入れようと奔走する冬美さん。
前向きな二人とは違い、夏雄さんはエンデヴァーを受け入れられずにいた。

でもそれは悪いこととかそんなことなくて。
俺らが知りえないことがあるかもしれないし、それに────



「轟くんはきっと許せるように準備してるんじゃないかな」



部屋から緑谷の声が聞こえた。



「本当に大嫌いなら許せないで良いと思う」



うん、緑谷。俺もそう思う。
許せないことは酷いことなんかじゃない。
それもひとつの選択で、きっとエンデヴァーはその選択も受け止める覚悟が出来ている。

向き合うことは…怖い。
いろいろな自分とも向き合うことになって、時には汚い部分も否が応でも見ることになる。



「でも君は優しい人だから待ってる…ように見える。そういう時間なんじゃないかな」

「…………」



緑谷の言葉を聞いたあとも夏雄さんは変わらず苦々しい表情を浮かべたままその場を立とうとする。



「あの────」



やっぱりこのまま独りにしたくなくて俺は呼び止めていた。
すると夏雄さんは立ち止まって振り返って俺の方を見てくれた。



「……なんだ」

「えと…」



だけど何を話したら良いかわからなくて俺は言い淀んでしまう。
そんな俺を察したのか夏雄さんは眉をひそめながら小さく笑みを浮かべた。



「……気ィ遣わせて悪いな」

「!」



会ってまだそこまで時間は経ってないけどわかる。



「……夏雄さん」

「?」

「今日はありがとうございました。夏雄さんたちに会えてよかったです。昔の記憶は正直あんまり覚えてないけど……幼い俺の面倒を見てくれて、今日も一緒に食事してくれて嬉しかったです」



まだまともに話すことすらままならない俺と一緒に遊んでくれて、
席に着くことすらきつかったはずなのに並んでご飯を食べて、
今だって帰る足を止めて俺の方を見て話を聞いてくれる。

夏雄さん、あなたもとても優しい人だ。



「…………!」



轟家のみんなは…優しい人たちばかりだ。





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