アトラクトライト | ナノ

 一つ一つ(6/8)



「あら、もう鎮火したんだ」

「!」



突然背後から聞こえてきた声に俺は振り返る。
するとそこには見覚えのある顔。



「や、ハルくん。数日ぶり」

「ホークス!」



ニコッと笑いながらひらりと手を振る。
どうやら用事で近くに来ていて、騒ぎを聞き付けてここまで駆けつけてくれたようだ。



「相変わらず早い対応だ。炎は苦手分野だから助かるよ」

「ありがとうございます」



その時俺の腹の虫が豪快な音を立てて鳴る。
それが聞こえてしまったらしくホークスは目を丸くして俺を見ていた。
恥ずかしくなって俺は俯いているとホークスの高らかな笑い声が響く。



「お昼時だから仕方ないよね!もしかして休憩中だった?」

「はい……」

「そっか。ここはもう大丈夫そうだし行こっか。奢るよ」

「!悪いですよ」

「いーのいーの。エンデヴァーさんにも連絡しとくから」



突然のNo.2ヒーローとの食事。
こちらは一方的に知ってるものの互いに接点はほとんどないわけで、正直少し緊張する。
さすがに断る訳にも行かずホークスの後ろをついて行くとえらく敷居の高そうなご飯屋に到着した。



「え、と……」

「予約済みだから大丈夫。すみませーん」

「(いつの間に!?)」



予約まで早すぎる……!
そんなことを思っていると中から着物を着た女性が出てきて俺たち二人を案内してくれて、通されたのは畳で掘りごたつのある和風な個室。
普段行くようなファミレスやハンバーガー屋とは全く違う雰囲気の店内に思わずそわそわしているとそれを見たホークスが笑った。



「そんな緊張しないで。有名になると誰がどんなこと聞いてるかわかんないから気軽にご飯も食べれないんだよ。───あ、これ美味しいよ。俺これにしよっかな」

「へえ…大変なんですね」

「まあね。で、どれにする?」

「じゃあ俺も同じやつで」

「はいはい。すみませーん」



何度か来ているのか慣れた手つきでホークスは注文を済ませた。
そして店員さんが立ち去ると再び二人きりに。
出されたお茶を飲みながら俺は思考をめぐらせる。



「(何を話そうか……)」

「エンデヴァーさんのところに来てどう?慣れた?」

「まだ全然で新しい課題と向き合う日々ですね」

「ふうん。ハルくんはどうしてエンデヴァーさんのとこに?」

「職業体験やインターンでお世話になっていた事務所に訳あって行けなくて…そんな時にとどろ……ショートが誘ってくれたんです」

「インターンはナイトアイさんで、職業体験は……ヘルパットさんのところだっけ」

「よく知ってますね」

「まあね。君は目立つからね」



なんだか含みのある言い方に思わず苦笑いを浮かべる。
今後ヒーローとして活動する上でそれってどうなんだろうか……。
なるべく影をひそめてるつもりなんだけど…もっと大人しく、あと素性がわからないように努めるしかないか。



「あ、そういえば前に頂いた本読みました」

「!…そっか」

「……?」



進めてきた割になんでこんなに食いつき悪いんだろう?
そんなことを不思議に思いながらこの話を深堀りするか悩んでいると以外にもホークスの方からどうだった?と切り込んできた。
その問いに対して俺は一瞬言葉を詰まらせた。

ホークスの食いつきがよければノリを合わせてあの本の感想を述べようと思ったけど、今の一瞬のリアクションを見てわからなくなった。

素直な気持ちを伝えるべきか。
それとも空気を読むべきか……。



「…………」

「……全部は読めてないとか?」

「いや!読みました!読んだんですが────」

「ん?」

「わかるけど…わからない。それが俺の感想でした」

「……へえ」



生まれながら持っている“個性”。
それを抑圧する今の世の中に対する問いかけ。
人権、個人の自由。
複雑に絡み合う社会の問題に対する問いかけ。

自分の力、“個性”を自由に自分で使うことへの主張。
世界の秩序を護るために抑圧し法の整備をし今の形に仕上げてきた事実。

様々な考えに触れられることは興味深かったけど、何が正しいかは俺にはわからなかった。

本の内容もだけどもう1つ俺が気になった点
────



「ホークスのひいてくれていたマーカー。あれって……」

「…………」



俺がそう言葉を紡ごうとした時に部屋の襖が開けられる。
そこに目を向けるとお盆に美味しそうな親子丼を乗せた店員さんの姿。
出汁の良い香りに半熟卵にプリプリな鶏肉。
思わず俺は生唾を飲み込んだ。

そんな俺を見たホークスはクスッと笑う。



「どーぞ」

「!いただきます!!」



口に入れた瞬間、広がる上品な出しの香り。
素材の味を生かした食材たちが舌の中でまるで踊り出すような、そんな最高に美味しい親子丼に俺は目を見開いた。



「う、うまあ〜〜…!!」

「喜んでもらえたなら良かった」



そう言ってホークスは笑った。
俺はその笑顔を見て箸を止めた。

初めて会った時からずっと思ってた。
あの人と─────



「ホークス」

「ん?」

「…冷めちゃいますよ?」



ヘルパットととてもよく似てる。



「…そうだね。いただきます」

「……………………」





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