◎ 一つ一つ(5/8)
翌日。
昨日に引き続きエンデヴァーに追いつこうと切磋琢磨する日々。
追っていた敵が細く入り組んだ路地へ逃げ込む。
その途端、体から噴出した煙で姿が見えなくなった。
俺らはまるで迷路のような路地敵を追って飛び込んだ。
「ハル!かっちゃん!轟くん!先回りして三方から追い込もう!」
「俺に命令すんじゃねえ!」
「わかった」
「ああ。俺は緑谷と行く」
「ありがとう!」
爆豪は爆ギレながらも迷いなく先回りの道を進む。
轟も反対方向の回り道へ氷結を出しながら進む。
俺と緑谷はそんな二人の動きを感じながらも煙の濃さを頼りに敵の背中を追い、隙を塗って引き返されたように俺ら温冷水で発言した水の壁を背後に携えた。
この地区の地図は全員すでに頭に入っており、合流地点で敵が確保できるはずとそう確信していた。
だが─────
「遅い。もうへばったのなら休憩でもしていろ」
合流地点で敵の背中が見えた次の瞬間、上から灼熱の縄状になった炎が敵を捕らえた。
敵が戦意喪失すると同時に煙が消え、前方からやってきたエンデヴァーが俺たちに言い放つ。
ヒーローに求められる基本条件、救助、避難、撃退のすべてを広い管轄街でそれを一人でこなすその姿はさすがナンバーワンヒーローと言わざるを得ない。
「(すっげーや…くそっ)」
「へばってねーわ!!」
爆豪は悔しそうに言い返す。
もちろん俺らもその気持ちではあるが、連日パトロールに加えて今日も朝からパトロールで動きっぱなしで疲労感は半端ない。
でも俺ら以上に動いているエンデヴァーには疲労の色さえ見えない。
これがプロとの差かと俺も悔しさを拭いきれずにいた。
隣ではエンデヴァーの行動を分析する緑谷や、悔しさを滲ませながらもエンデヴァーの一挙手一投足から全部を吸収してやろうという気概をうかがう轟。
みんなエンデヴァーより全然先に手にを退治するという目標に向かって闘志を燃やしていた。
その時エンデヴァーの携帯が鳴る。
「どうした。……そうか、わかった」
携帯の通話を切ったエンデヴァーが俺らを見て言った。
「見回り交代だ。ハルとデクとバクゴーは一時間休憩、ショートは俺と来い」
「なんで俺だけなんだ」
「取材だ。短い時間ですませる。これも仕事のうちだ」
「……わかった」
ナンバーワンヒーローとその息子である雄英所属のホープヒーローのコンビに世間の注目も高まるのも仕方がないかと納得しつつ俺たちは二人の背中を見送った。
炎のサイドキックに昼ごはんをどこかですませときな、と言われ俺は二人に向き直った。
「何食べたい?」
「なんでもええわ」
「僕も特には……。ハルは何か食べたいものある?」
「そうだな────」
そういえば期間限定のハンバーガーが発売された当日かと思い出した瞬間だった。
俺の携帯が鳴る。
「もしもし」
《ハル休憩中すまねえ!火災が発生して急行して欲しいんだが───》
「わかりました。直ぐに向かいます。場所はどこですか?」
《今いる場所から────》
エンデヴァー事務所は炎のサイドキックが多い。
その為このような火災現場への対応は他のヒーロー事務所に救援を頼んでいたが、今やそのほとんどを個性柄相性の良い俺が対応させてもらっている。
電話を終えると俺は頭に付けていたゴーグルをつけ直しながら二人に言った。
「火災の対応に呼び出された。お昼は二人で食べてきて」
「うん。気をつけてね!」
「ああ」
二人にニッと笑いかけ指示された場所へ俺は向かった。
現場に近づくにつれ鼻をつく焦げ臭い匂いに思わず眉をひそめる。
火の手は1軒の住宅から上がっていて、近くにいたサイドキックへ声をかけた。
「中に誰かいますか?」
「待ってたぞ!全員避難は完了している」
「了解です。であれば…今から“ドライアイス”消火するので可能な限り離れていてください」
「ああ!」
近くにいたサイドキックが十分に距離を取ったことを確認して俺は上から粉末状のドライアイスを炎の上がる住宅へ巻いた。
するとどんどん火の手は収まり、少しすると完全に鎮火し終えたことを確認しほっと胸を撫で下ろす。
下を見ると地面から鎮火を確認したサイドキックたちが笑顔で手を振っていたからそれに答えるように俺も笑って手を振り返した。
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