アトラクトライト | ナノ

 一つ一つ(4/8)



「ショート、バクゴー。とりあえず貴様ら2人には同じ課題を与えよう」



毎度セット扱いされることに爆豪は少し不満げな様子。
一方の轟はそれが赫灼の習得に繋がるのかとエンデヴァーに尋ねた。



「溜めて放つ。力の凝縮だ。最大出力を瞬時に引き出す事、力を“点”で放出する事。まずはどちらか一つを無意識で行えるよう反復しろ」

「かっちゃん!徹甲弾(A・Pショット)と同じ要領だ!」

「何で要領知ってんだ!てめー本当に距離を取れ」(ゾワッムカッ)



全く違う個性なのによくそこまで理解してるな、さすがヒーローオタクと言うべきか。
多分緑谷の持ってるヒーロー分析ノートには少なくともA組メンバーの情報はびっちり書いてあるんだろうな。
……なんか俺のこともびっちり書いてあると思ったらちょっと怖くなってきたかも。



「…………」(ススッ)

「ちょっと!ハル!?」



ちょうどお昼時になったから俺たちはコンビニでパンを買ってビルの上で食べた。
俺が食べているパンを轟は珍しそうに眺めていたから思わずパンを差し出しながら声をかけた。



「食べる?」

「いや…それ何パンなんだ?」

「コロッケパン。炭水化物×炭水化物だけどこれが結構美味い」

「そうか」



俺と轟がパン談義をしている中、エンデヴァーは緑谷に声をかけた。



「デク。瞬時の引き上げが出来ている状態…そうだな」

「はい」

「ならばエアフォースとやらを無意識でできるように“副次的な方”は一旦忘れろ」



でも……と口を噤む緑谷にエンデヴァーは言った。

人は誰しも日常的に並列に物事を処理している。
車の運転もハンドル操作、アクセル、ブレーキ、前方、後方の確認など行うべきことは多いが一つ一つ段階を踏むことで無意識下で行えるようになる。
それと個性も同じだ、と。

個性は他人から見たら特別な力かもしれないけど、自分からしたら日常を共に過ごす何気ないもの。



「まずは無意識下で二つのことをやれるように。それが終わればまた一つ増やしていく。どれ程強く激しい力であろうと礎となるのは地道な積み重ねだ」



時にはオールマイトのように全てを飛び越えてしまう才能の持ち主もいる。
だけど積み重ねる方法しか自分は知らない、とエンデヴァーは言った。



「同じ反復でも学校と現場とでは経験値が全く違ったものになる。学校で培ったものをこの最高の環境(No.1ヒーロー事務所)で体に馴染ませろ」

「はい!」

「最後に……ハル」

「はい」

「お前は考えすぎるな。もっと直感的に動け」

「……???」



エンデヴァーが俺に何を伝えたいのか、その意図が読み解ききれずに俺は頭に疑問符を浮かべた。
そんな俺を見たエンデヴァーは口を開く。



「貴様はこの四人の中で一番状況把握、判断、スピードは優れている。だが、それにも関わらず俺には追いつけない。それは把握と判断の間に“不要な思考”をしているからだ」

「不要な思考……」

「ケッ」

「どんな時も俺がいる前提で考えているだろう。俺の邪魔にならぬよう、俺が最大限能力を出せるよう───だがそんな配慮は不要。貴様らの動きに合わせる事など造作もない。そもそもそれも考慮して俺はいつも動いている」

「!」



雄英に入ってたくさんの経験をしてきた。
目まぐるしいスピードに翻弄されそうになるけど……



「なに安心して失敗しろ。貴様ら4人如きの成否、このエンデヴァーの仕事に何ら影響することはない!」



俺の出せる最高速度で一つ一つ。





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