アトラクトライト | ナノ

 一つ一つ(3/8)



俺は11歳の時に“温冷水”を父さんから授かった。
他のみんなから少し遅れたスタート。
みんながこれを使ってどこに行こうか考えている時、俺はその使い方を学んでいた。
無意識下で使えるようになるまでひたすら反復、反復───…。

今度は幸がくれた“圧力”をまずは自分のものにする。



「あいたァ!!」

「当て逃げ犯確保」

「一足遅かったな」



エンデヴァーより追い越すどころか追いつくことすらやっとで俺らはその背中を見ることしか出来ずにいた。



「冬はギア上げんのに時間かかんだよ」

「爆豪気づいてるか?」

「てめーが気づいて俺がきづかねーなんてことねンだよ。何がだ。言ってみろ」

「あいつダッシュの度に足から炎を噴射してる。お前見てたか知らねえが九州でやってた“ジェットバーン”、恐らくアレを圧縮して推進力にしてるんだ」

「俺の爆破のパクリだ。つーかてめ────“今”気づいたんか」

「───ああ。全く遠回りをした」



その時エンデヴァーが違う方面に視線を向けると同時に微かなブレーキ音らしきものが聴こえた。
コンマの差で俺はエンデヴァーと同じ方面へ飛び立った。



「!(こいつ…)」

「あ、テメ────!」

「あともう一つありますよね」

「そうか…!」

「あっちは大通り。火炎放射で逃走経路を絞りながら先回りしていた」



緑谷たち三人もエンデヴァーを追いかける。



「先の九州ではホークスに役割分担してもらったが…本来ヒーローとは一人で何でもできる存在でなければならないのだ」



後から動き始めたのに爆豪もう追いついてきてる。
やっぱり速いな…!



「バクゴー。何が出来ないかを知りたいと言ったな。確かに良い移動速度、申し分ないルーキーとしては。しかし今まさに俺どころかハルを追い越すことが出来ないことを知ったワケだ」

「!」



どんどんと近づいてくる先程聞いた音。
そして見えてきた対象に向かってすぐに“温冷水”を放てるよう増幅を始めた。
だが少し先を走るエンデヴァーの手は炎。



「(なら…!)」

「冬は準備が────」

「間に合わなくても同じ言い訳をするのか?ここは授業の場ではない」



放たれた炎でトラックの動きを緩めつつ最終的には横断歩道を渡っていた歩行者との間に入り完全に止めてみせた。



「間に合わなければ落ちるのは成績じゃない」




人の命だ。




「大丈夫ですか!?」



座り込んでいた女性に近づく。
だけど心配は杞憂だったようで慌てて謝りながらトラックから降りた運転手へ怒りをぶつけていた。

その女性を緑谷と一緒に慰めつつ持っていた応急キットで擦りむいていた膝の手当をした。



「これで大丈夫だと思いますがなにか異変が起こったらすぐに病院に行ってください」

「ありがとう。エンデヴァー!本当にありがとう!」



女性はそう言って笑いながら俺たちに手を振ると日常へと戻って行った。





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